2020 Fiscal Year Research-status Report
20世紀の亡命ロシア人社会と「移動させられたアーカイブズ」に関する研究
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19K00932
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
バールィシェフ エドワルド 筑波大学, 図書館情報メディア系, 助教 (00581125)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 亡命ロシア人 / 戦間期の東アジアと世界 / 記録遺産 / 移動させられたアーカイブズ / RZIA |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度中、戦間期(1920~1930年代)の東アジアの亡命ロシア人社会の歴史とその記録遺産に関わる基礎的な文献の収集を続け、手元の一時資料の解読と分析を行った。こうすることによって、第一に、亡命ロシア人の記録遺産の分散・分布状況およびその全体像をつかもうとし、「移動させられたアーカイブズ」という概念との関連性を考えた。第二に、コロンビア大学バフメーチェフ文書館(Bakhmeteff Archive of Russian and East European Culture, 以下はBACU)、スタンフォード大学フーバー研究所文書館(Hoover Institution Archives, HIA)およびロシア連邦国立文書館(GARF)で収集したプラハのロシア在外歴史文書館(Russian Historical Archive Abroad in Prague, RZIA)の資料を頼りにして、亡命ロシア人社会とアーカイブズというテーマを実証的に検討し、亡命ロシア人社会自体の活動記録と亡命以前の諸活動に関わる記録の関係を明白にしようとした。すなわち、「移動させられたアーカイブズ」とそうでない歴史記録を代表する特定の記録群の選定を検討し、亡命ロシア人関連の諸文書館の制度的な特質とこれらの関係性の解明を狙った。また、この分析を通して、この三者の文書館コレクションのなかで元の公文書(public records)の位置をより明白に形容できる方法を探っていた。結果として、上記の三つの文書館をまたぐ記録群を検討する価値を再確認できたほか、コロナウィルス感染症拡大という状況のなかでの研究の可能な展開の方法と形態を考慮した。本年度中、「在外ロシア」の「移動させられた」アーカイブズに関する自分の問題意識を一層具体化させ、上記の文書館の関係性を解明したことは最大の実績であったといえよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナウィルス感染症拡大というやむを得ない客観的な事情で、2020年度内に予定していたロシア(モスクワ)、アメリア合衆国およびチェコ(プラハ)での資料収集を実施できなかったので、目立つほど大きな進展や研究成果がみられなかったものの、文献収集および手元の一次資料の検討が順調に進んでいると言える。また、今後も海外の文書館での資料収集は見込めないなかで、手元にある一次・二次資料を活かした形で研究を完成する方法を真剣に考えたという意味でも一定の進展がみられた。現在、HIA, RZIAおよびBACUという三者の間で分割されてしまった亡命ロシア人の記録群(fonds d'archives)の運命をテーマにした論文の執筆にとりかかろうとしているほか、RZIAの収集活動の展開とその特徴および戦間期の極東の亡命ロシア人の記録遺産の蓄積化を取り扱う新たな論文を計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
元の計画どおりに、第一に、「在外ロシア」のアーカイブズの量的かつ質的な構成と分布を明らかにしていく予定である。第二に、「在外ロシア」関連の「移動させられたアーカイブズ」の移管(受入)プロセスの詳細を見極めるために、手元にあるあるいは取り寄せ移中であるRZIA管理記録を分析していく。特に、2021年度も海外の文書館での資料収集は見込めないなかで、①手元にある一次・二次資料、②オンライン上で閲覧・入手できる情報・データを最大限に活かしながら、③業者などを介して海外の文書館などの資料の複写物を可能な限りに入手するなどことによって、研究の進展を心掛けていく。資料の解読・翻刻を進め、研究成果を学術論文として発表できるようにする。それをもって、「移動させられたアーカイブズ」の構想とその適用範囲を一層具体化させることができるであろうと考えられる。
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Causes of Carryover |
コロナウィルスというやむをえない客観的な事情で、2020年度内に海外調査を実施し、集中的にプロジェクトを推進することができなかったため、一部の研究費を次年度に繰り越しすることになった。2021年度においても、海外の文書館での資料収集は見込めないため、その資金は、①(業者を介して依頼する)海外の文書館での資料の複写代、②計画中である論文の校正料や③協力者・補助者による資料の入手・処理経費などに当てる予定である。文献収集と資料分析を継続し、研究成果の論文化に向けた作業を活発化させたい。
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