2022 Fiscal Year Research-status Report
Soft Power Strategy of the Byzantine Empire
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19K01053
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
根津 由喜夫 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (50202247)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ビザンツ / アドリア海 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度もコロナ禍の影響もあり、当初、予定していた海外調査活動を断念せざるを得ず、そのためにプランの変更を余儀なくされたことは遺憾なことと言わざるを得ない。その結果、今年度の活動は文献の収集とその読解の作業にほぼ限定されることになった。コロナ禍の影響は前年度と比べれば低減化したものの、学務増大状況は依然として深刻であり、研究面において順調な成果を上げられたとは断言するのは難しい状況であることは否定できない。それでも着実な前進は図られているものと考えている。具体的に取り組んだのは、8-10世紀のアドリア海北部、ビザンツとフランク人勢力の境界域における在地系力の動向に関する研究、および15世紀ビザンツ帝国滅亡前夜のビザンツ知識人とイタリア・ルネサンスとの相互関係などの文献を今年度は渉猟した。これらはいずれも、ビザンツの中央政府の意向とも関係を持ちつつ、政治的・軍事的実体と離れた部分でビザンツ帝国のもつある種の「文化的パワー」にイタリアのエリート層が惹きつけられていたことが確認できた点においては一定の成果が得られたと言えるだろう。この他にも最近はイタリアを含む西欧世界とビザンツとの相互関に関する研究が再活性化する傾向もあり、申請者もそうした動向を積極的に追跡している。 また、アドリア海におけるビザンツの海軍力を補完する存在としてヴェネツィアがいかに台頭していったのか、ヴェネツィアとビザンツの間でアドリア海沿岸部の諸都市がどのように独自の発展を果たしていくのかなどに関して分析を行ったが、これに関してはまだ十分に考察は進んでいない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ・ウィルスの蔓延の結果、予定していた海外での調査活動を実施することができなかったことが研究遅延の最大の要因である。他方、国内において実施できる範囲での関係文献の収集、読み込みの作業は着実に進められているため、現状では研究の遅れは最小限に留められていると個人的には判定している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度に当たるため、これまでの研究成果をまとめる作業に集中する予定である。具体的な対象となるのは、イタリアとハンガリーを中心とした中欧を考えている。 イタリアについては、9―11世紀、12世紀、13―15世紀の3つの時期に区分して考察を進めていきたい。第1の期間は、ビザンツは南イタリアに直轄領を保持し、教皇庁や北イタリアに進出したフランクやドイツ王国の勢力と直接、渡り合った時代、2番目はイタリアにおける支配領域は失ったものの、依然としてビザンツが欧州国際政治の主役の一人だった時代、そして第3の時代は、ビザンツの国力が低下して、かえってイタリアの中小領邦レヴェルの君侯との交流が活性化した時代である。今回の研究では、それぞれの時代を通覧しつつ、個々の時代のビザンツ・イタリア関係の特質を浮かび上がらせることで、両者の相互関係の変遷するプロセスを解明していきたいと考えている。 一方、ハンガリーは、10世紀にローマ・カトリック圏の一員としてキリスト教世界に参入したが、それ以降、14世紀に至るまで、ビザンツのバルカン政策において、ときには手強い競合勢力、ときには信頼できる同盟者として大きな存在感を示していた。とくに12世紀においては両国家の君主家系の間で繰り返し通婚関係が結ばれており、ビザンツのバルカン西部政策の重要なパートナーの地位を占めていたことは疑いないところである。12世紀のビザンツ・ハンガリー関係については欧米学界でも近年ようやく議論が本格化し始めた分野であるため、なかなか精緻な分析を行うのは容易ではないが、近年の研究成果も活用しつつ、考察を深めていきたいと考えている。 k
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Causes of Carryover |
新型コロナ・ウィルスの流行の影響で3年間にわたって海外に於ける実地調査活動を行うことができなかったため、3年間に予定されていた海外出張経費を執行しないままできたことが、次年度使用額が発生した最大の理由である。今回、持ち越された金額は比較的、少額に留まっているため、今年度中に文具類その他の消耗品購入に充当し、速やかに費消することは可能と思われる。
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Research Products
(1 results)