2021 Fiscal Year Research-status Report
旧イギリス帝国植民地におけるアイデンティティの変遷と国旗・国歌論争
Project/Area Number |
19K01072
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
津田 博司 筑波大学, 人文社会系, 助教 (30599387)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カナダ / オーストラリア / ニュージーランド / 国旗 / 国歌 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、1990年代のオーストラリアにおける共和制国民投票を主軸として、論争のなかで表出する新国旗制定をめぐる軋轢の構図を、ニュージーランドやカナダと比較しながら分析した。新型コロナウイルスの感染拡大によって現地での史料調査の断念を余儀なくされたため、昨年度までの研究活動で蓄積してきた史料を活用しつつ、インターネット上で公開されている統計などによる補完を試みることで、研究の遂行に取り組んだ。 オーストラリアでは歴史上、イギリス本国との対比から階級的平等を志向する思想が醸成され、君主制を民主主義と共存困難な存在としてとらえる潮流が見られる。帝国主義時代においては、帝国の一員として君主制を支持する世論が支配的であったものの、脱植民地化の進展に伴って、イギリス国王を元首とする体制の是非が改めて議論の対象となり、1999年には共和制への移行をめぐる国民投票が実施されるに至った。 当時のメディアでは共和制への賛成が多数との報道もあるなか、共和制への移行は否決された。この背景には共和制への賛否だけでなく、国家元首となる大統領が連邦議会によって指名されるべきか、国民の直接投票によって選出されるべきかという、共和制に移行した際の制度をめぐる意見の相違があった。ここで注目すべきなのは、従来と異なる複数の選択肢が提示されるなかで、新たな選択を目指す側が意見を集約できずに、結果として「現状維持」が多数を占めることになる構図である。同様の展開は、時期と主題を異にするニュージーランド国旗をめぐる国民投票でも起こっており、脱植民地化を果たしたはずの国家において既存の象徴が維持される要因の一端を示すものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの流行が長期化し、オーストラリア、ニュージーランド、カナダを候補としていた史料調査を実施することができず、研究実施計画を大幅に変更して補助事業期間を延長せざるを得ない状況にある。日本において入手可能な出版物などについては網羅的に収集が進んでおり、オーストラリアにおける共和制論争を通して、ニュージーランドやカナダの事例との共通性や差異を抽出し、学会報告としての成果発表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本来は昨年度から今年度にかけて予定していた各国における新国歌・国旗制定および共和制論争に関する史料調査について、新型コロナウイルスの感染状況や海外渡航の規制を勘案しながら、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドのいずれかで実現を目指す。複数国への長期の渡航には困難が予想されることから、今後の動向に応じて最も実現性の高い渡航先を柔軟に選択し、本研究の全体を通して得られた知見の体系化に取り組む。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大により、前年度から今年度にかけて予定していた対象国における史料調査を実施することができず、主として海外旅費として計上していた経費に余剰が生じたため。本研究課題にとって現地での史料調査は不可欠であるため、補助事業期間を延長した上でカナダ、オーストラリア、ニュージーランドのいずれかでの調査を実現できるよう、海外渡航を計画している。
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