2022 Fiscal Year Annual Research Report
旧イギリス帝国植民地におけるアイデンティティの変遷と国旗・国歌論争
Project/Area Number |
19K01072
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
津田 博司 筑波大学, 人文社会系, 助教 (30599387)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カナダ / オーストラリア / ニュージーランド / 国旗 / 国歌 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、オーストラリアにおける1970年代の新国歌制定から1990年代の共和制国民投票を長期的な対象として、同時期に浮上したオーストラリア国旗をめぐる論争について、新国旗制定を推進する団体の活動やメディアにおける議論を中心に分析を行った。その一環として、7月31日から8月28日にかけてオーストラリア(オーストラリア国立図書館)での現地調査を実施した。申請時の研究実施計画においては、ニュージーランドおよびカナダでの史料調査を予定していたが、新型コロナウイルスの流行に伴う海外渡航の規制などを勘案して、共和制論争が最も活発化したオーストラリアの事例に集中することで、現実的なかたちで研究活動を実現した。 1960年代のカナダにおける新国旗制定を端緒として、オーストラリアおよびニュージーランドを含めた対象国においては、国旗・国歌といったシンボルから君主制・共和制といった政体に至るまで、様々な次元の論点が相互に結びつきながら、自国のアイデンティティが議論されてきた。例えばカナダでは、非イギリス系マイノリティへの配慮から他国に先行して新国旗・国歌が制定された反面、共和制への移行が大規模な政治運動として展開することはなく、政体をめぐる国民投票の実施に至ったオーストラリアとの間には、大きな落差が存在している。本研究課題での分析からは、植民地時代のオーストラリアがイギリス本国との同質性をアイデンティティの基盤としてきた反動として、むしろ急激に脱イギリス的な差異化を志向するナショナリズムの傾向を確認することができた。 新型コロナウイルスの流行によって対象国での調査を縮小した結果、1次史料に基づく分析や成果発表に困難が生じたものの、旧イギリス帝国植民地のアイデンティティをめぐる共通性と差異を析出するという目的については、研究期間全体を通じて一定の知見を確立できたと結論づけられる。
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