2023 Fiscal Year Research-status Report
都市の選択:15世紀スイスの地域の権力構造とハプスブルク家の影響力
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19K01075
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
田中 俊之 金沢大学, 人文学系, 教授 (00303248)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | スイス盟約者団 / ハプスブルク家 / 森林諸邦 / 帝国直属 / ヴィッテルスバハ家 / ラインフェルデン |
Outline of Annual Research Achievements |
盟約者団国家スイスの国家形成のあり方について、いわゆる定説におけるスイス中央山岳地域の森林諸邦(原初三邦)を中心とした同心円状の同盟ネットワークの拡大を盟約者団国家形成のプロセスと見る見方は、封建貴族vs.農民・市民という対ハプスブルク闘争史観を前提としていたと言ってよい。このことがフランスとイギリス、ドイツとイタリアとは異なる第3の国家形成の形を成したとしてスイスの独自性を際立たせていたのである。しかし近年のスイス史理解が、長らく所与の前提であった対ハプスブルク闘争史観を相対化しようとする方向に進みつつあることをふまえるならば、その前提を切り崩すことによって新しいスイス史像を描き出す可能性が生まれるはずである。 本研究の当初の研究テーマはその一環として、スイス北西部の都市ラインフェルデンの15世紀における動向分析から目的に接近しようとしたが、コロナ禍期間中の海外渡航が叶わず、2023年夏にようやく渡航が叶い、アーラウの公文書館を訪問することができた。依然わからないのは、15世紀後半、スイス北西部近隣の周辺主要都市がスイス盟約者団への加入の構えを見せるなかで、なぜラインフェルデンだけはハプスブルク家への臣従を誓ったのかという点であった。この点はアーラウ文書館員への直接の問いかけによっても判然とせず、有効な史料へのアクセスにも至らなかった。 他方、代替テーマとして設定した森林諸邦の同盟締結に向けての動向については、旧来の「永久同盟」(1291年8月1日)、「ブルンネン(モルガルテン)同盟」(1315年12月9日)のいずれもが近代的自由と対ハプスブルク闘争史観による解釈に基づいているとの思いを強くし、1330年代までの森林諸邦、ハプスブルク家、王権(ヴィッテルスバハ家)の動向分析を行うなかから、森林諸邦の「帝国直属」の地位への固執という観点が切り口になりうるとの見通しを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本来設定したスイス北西部の都市ラインフェルデンとハプスブルク家の関係についての分析の遅れは、コロナ禍のため2020年から2022年にかけて、従来のような海外渡航による文書館史料調査を行うことができなかったことによる。 しかし不測の事態に備えて並走させていた初期盟約者団形成に関する課題に取り組むことにより、「地域の権力関係」および「王権との関係」へのアプローチにヒントが得られた点、その観点を活かした英語による国際学会での発表は収穫であった。とはいえ、本来の課題の達成には挽回が急がれる現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
本来のテーマである都市ラインフェルデンの動向分析については、決定的史料に欠けるなか、北西スイスの周辺諸都市(ベルン、バーゼル、ソロトゥルン等)の動向および15世紀後半におけるハプスブルク家の動向からの間接的動向分析も視野に何らかの見通しを得るべく努力を重ねる。 代替テーマであるスイス盟約者団形成プロセスについては、伝統的歴史観に基づくスイス史像への疑問がますます膨らむなかで得られた「帝国直属」の地位への固執という観点から、自身の研究の発展につながるより明確な輪郭を得られるよう努力したい。
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Causes of Carryover |
本来の研究の佳境がコロナ禍によって閉ざされたため、未完成の研究をこのまま完成年度の成果とすることは不本意であるため、少額ではあるが次年度使用額として残し、完成度を少しでも上げたい。
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Remarks |
田中俊之「ドイツ中世都市の手工業者の世界」(金沢大学公開講座、2023年9月30日、金沢大学サテライト・プラザ)
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