2020 Fiscal Year Research-status Report
メソポタミア初期農耕社会の再編期における物質文化の基礎的研究
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19K01111
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
小高 敬寛 金沢大学, 国際文化資源学研究センター, 特任准教授 (70350379)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | メソポタミア / 肥沃な三日月地帯 / 新石器時代 / 社会再編 / 土器 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度に実施した東京大学総合研究博物館所蔵資料およびスレーマニ文化財局所蔵資料の考古学的なドキュメンテーションに基づき、主としてイラク北部、テル・ハッスーナ遺跡およびシャイフ・マリフ遺跡における後期新石器時代の土器の属性分析をいっそう推し進めた。また、これらの成果と本研究の開始に先行して実施していた、東京大学総合研究博物館が所蔵する同じくイラク北部、マタッラ遺跡採集の後期新石器時代土器資料の調査成果とを相互に比較し、型式学的方法に即して物質文化の時空間的な枠組みを再検討した。 その結果、20世紀半ばに確立された北メソポタミア地方の従来の考古学的編年は、考えられていたよりも限定された空間にのみ適用可能であり、実際には地域的な変異を考慮する必要があることが分かった。しかも、なかには既知の考古学的文化の変種と呼ぶべきではなく、独自に発生したとも推測されるような確たる独自性を有する物質文化が存在することが判明した。 但し、そうした見解は、今のところ本研究における土器の型式学的な分析から主張されるに過ぎないため、今後は物質文化の別の側面に光を当てながら、検証を進めていくことが求められる。それでも、長い戦禍を乗り越えて、再び現地調査の進展が見込まれるイラク北部、ひいては北メソポタミア地方の先史考古学にとって、研究の基盤を今日的に更新するための重要な視点を提供することができた。 こうした研究成果は、論文や学会報告の形で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の主な調査対象である2機関の所蔵資料のうち、東京大学総合研究博物館所蔵資料については2019年度までに考古学的なドキュメンテーションをおおむね完了することができ、2020年度にはそのデータに基づく分析も進められた。基本的な作業プロセスは当初の計画以上に順調ともいえるが、その余裕を活用すべく見込んでいた考古科学的分析や三次元計測に係る補足的な追加調査は、新型コロナウイルス感染症の影響による各研究機関の出張・受け入れ制限のため、先送りとなってしまった。 一方、スレーマニ文化財局所蔵資料については、2019年度にシャイフ・マリフ遺跡採集資料を綿密に調査し、同じく十全なドキュメンテーションおよび整理作業を行なった。しかし、2019年9月に発掘された、シャフリゾール平原内のシャカル・テペ遺跡における良好な新石器時代文化層から出土した土器資料の調査は、やはり新型コロナウイルス感染症の影響により現地への渡航がかなわなかったことから、2019年度末に続いて2020年度も実施できないままに終わってしまった。 このように、2020年度は活動の厳しい制約を受け、これまでの研究成果をいったんまとめて報告するという方策をとらざるを得なかった。その分、本研究の進展に遅れが生じてしまった事実は否めない。 以上の理由から、現在までのところ、本研究はやや遅れているとの評価が妥当と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は出張のうえでの調査が実施できなかったため、基本的には2020年度の初めに掲げた方策を承継する。 研究対象資料の考古学的ドキュメンテーションについては、東京大学総合研究博物館所蔵資料に関して基本的なプロセスを終えたため、今後はスレーマニ文化財局に保管されている資料、特にシャカル・テペ遺跡出土土器資料に焦点を当てて推進する。当初は、スレーマニ文化財局所蔵資料のうち、シャフリゾール平原内にある他の複数の遺跡で採集された資料を調査対象として考えていたが、それらよりも圧倒的に数量が多いうえ、発掘による付帯情報を伴うことから、遥かに確度の高い研究成果を期待できる。 だが、コロナウイルス感染症対策等の事情を考慮すると、引き続き現地への渡航の可否は不透明と言わざるを得ない。渡航できない場合は、2020年度に引き続き、物質文化の時空間的な枠組みを再考察し、理解の深化を目指す他ない。その際には、これまでに整理してきた東京大学総合研究博物館所蔵資料、およびシャイフ・マリフ遺跡採集資料の調査データを用いることとなる。 但し、前者については、国内の状況を見極めたうえで安定的にアクセス可能といえる状態になれば、資料から更なる多角的な情報を引き出すべく、考古科学的な分析手法を検討し、実施する。具体的には、複数の遺跡から採集された土器の薄片を作成し、光学(実体および偏光)顕微鏡観察による胎土分析を行ない、含有鉱物の異同について調査することを考えている。
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Causes of Carryover |
2020年2月上旬にスレーマニ文化財局での土器資料調査を予定していたが、米国―イラン間の関係悪化の影響により、日本国外務省からイラク全土への渡航中止勧告が発出されたため、調査をとりやめた。その後、勧告は解除されたが、今度は新型コロナウイルス感染症の影響でイラク側が日本からの入国を制限したため、2019年度内に延期しての実施がかなわなかった。更に2020年度も新型コロナウイルス感染症の猛威は収まらず、当初より2020年度に予定していたスレーマニ文化財局での土器資料調査とあわせて、引き続き延期せざるを得なかった。 次年度使用額は本来、当該の出張旅費および必要資材の購入等に支出する予定であったため、2021年度に状況が整い次第、調査を実施して使用する。他、2021年度分として請求した助成金は当初の予定通り使用し、主に考古科学的分析費用や資料整理作業補助の謝金に充てる。
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Research Products
(8 results)