2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K01259
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
東川 浩二 金沢大学, 法学系, 教授 (60334744)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上机 美穂 札幌大学, 地域共創学群, 教授 (00508707)
西土 彰一郎 成城大学, 法学部, 教授 (30399018)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 虚偽の言論 / 選挙言論 / フェイクニュース / プライヴァシー / 人格権・人格的利益 / 名誉毀損 / 知る権利 / ネットワーク公共圏 |
Outline of Annual Research Achievements |
東川は選挙期間中の虚偽表現の規制について、アメリカ法の動向について、海外調査を含む研究を行い、その結果について、学会報告を行った。その結果、アメリカ法が一般に言論規制について消極的であるという大原則が確認されたが、同時に、裁判所による、憲法違反であることの理由づけにおいて、規制が過剰、ないし過少であると指摘されている点が発見、確認されたことが重要である。選挙過程が汚染されない利益については裁判所が肯定している点を確認できたのも収穫である。海外調査において、我が国のヘイトスピーチ規制に見られるように、虚偽の言論をおこなった者について、氏名等を公表するというような手法であれば、合憲性がより高まるのではないかという評価を得たことも、本研究グループの方向性に沿うものであり、有意義な意見交換となった。 虚偽の言論による被害をどのように回復するかを検討する上机は、伝統的な民事法の救済枠組みと虚偽の言論が引き起こす損害の関係を整理し、虚偽の言論によって嘘を広められた被害者は「作られた私的事柄」を公表されたことは従来のプライヴァシー侵害とは言えないが、イギリス法においてfalse privacyという概念が生成されつつあることを突き止め、それはアメリカ法におけるfalse lightに類似することを指摘し、伝統的な民事法の救済枠組みが変わりつつある点を発見している。 ジャーナリズムの観点から虚偽の言論を分析する西土は、ジャーナリズムが奉仕する国民の知る権利が、公論を生み出す理性が働くところの公共圏の確立を要請していることを指摘した。その上で、インターネットやSNSが高度に発展した現代においては、二分化された公共圏、ないしはネットワーク公共圏と呼べるものが存在し、そこに虚偽の言論が流通する場合に民主政の基盤が毀損される可能性を憂慮している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は概ね順調に推移していると言える。本年度の課題は、虚偽の言論を規制する際に、特に伝統的な憲法学や民事法学の理解に基づくと、どのような問題点が生じるかということを検討することである。言論規制に極めて消極的であるアメリカ法やその影響を強く受けた日本の憲法学における従来の枠組みでは、虚偽の言論の規制は不可能であるが、実際には、虚偽の言論が規制される、また要請される場面が存在しており、そのことについて裁判所も肯定していることを確認できたのは大きな収穫である。上机、西土もそれぞれに設定した課題を行なっており、順調であると言える。上机のfalse privacy、ないしfalse light概念の紹介は、名誉毀損訴訟に傾倒しがちであった民事救済のあり方を、概念的に拡張しうるし、西土のネットワーク公共圏の指摘は、ドイツにおけるいわゆるフェイクニュース規制法の検討に、うまく接続できている。 一方研究の方向性を確認するために、初年度に設定した各人が行う海外調査は、東川のみにとどまった。西土はインタビュー対象者の都合により調査が行えなくなったため、その分の費用を東川に振り返る措置をおこなった。振替分については、2019年度末に実施する予定であったが、コロナウイルスによる影響で不可能となった。上机の当初予定分も、コロナウイルスによる影響で不可能になった。 もっとも、当初設定していた研究課題については概ね達成されており、東川については、かなり詳細な海外現地調査に基づく研究とその報告が行われている。したがって全体としては、概ね順調に推移していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度においては、今年度の研究成果をより丁寧に整理、分析するほか、研究成果の発表を引き続き行う。東川はアメリカにおける選挙言論規制法をより詳細に検討するほか、内容規制、内容中立規制の差異に着目して、考えられる規制方法とその問題点を検討する。東川は最終年度の、アメリカでの学会報告に向けて、アメリカの研究者との意見交換をより活発化させる予定である。 上机は今年度の成果に基づき、従来わが国でほとんど紹介されていないfalse privacy、ないしfalse lightの問題とプライヴァシー、人格権との関係の解明を進める。また名誉感情侵害を、従来の不法行為法においてどのように位置づけるかの解明も行う予定である。2019年度の研究成果について、2020年3月に21世紀不法行為法研究会(於明治大学)および不法行為法研究会(於弘文堂東京都)において研究報告の予定であったがコロナウイルスの影響で中止となったため、2020年度に本務校の紀要、および情報通信関連の雑誌に論文として発表する予定である(時期はコロナウイルスの状況次第で変動もあるが、おおよそ2020年度秋ごろまで)。 西土はドイツにおけるフェイクニュース規制法について詳細な検討を行うほか、ネットワーク規制法に詳しいドイツ・ハンブルク大学の研究者を招聘し、ドイツにおける虚偽言論の規制の問題点とインターネットの関係について検討する予定である。
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Causes of Carryover |
主として、コロナウイルスにより、海外調査を行うことができなかったことによるものである。2020年度に、ウイルスの状況を見ながら適切に実施する予定である。
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Remarks |
西土は、著書の分担執筆を行った。 西土彰一郎「イデオロギーとしての取材報道の自由」大石泰彦・編著『ジャーナリズムなき国の、ジャーナリズム論』(彩流社、2019年)54-79頁
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