2019 Fiscal Year Research-status Report
高齢投資者の保護法制に関する考察―証券会社の負う義務の視点から―
Project/Area Number |
19K01427
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
萬澤 陽子 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 准教授 (50434204)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 高齢投資者 / 投資者保護 / 高齢顧客 / 証券会社の義務 / 通報制度 / アメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、わが国における投資詐欺等から高齢者を保護する制度(「高齢投資者保護法制」)のあり方を模索するために、アメリカで採用されている「義務的通報制度」(顧客等に投資詐欺等が行われている合理的疑いがある場合に、証券会社等に規制当局への通報を義務付けるもの)の内容と実態について調査することをその内容とする。同研究につき、本年度は主に2つのことを行なった。一つは、「義務的通報制度」から見る各州の高齢投資者保護法制の調査であり、もう一つは証券会社に通報義務を課すことの法的意味の検討である。 前者について、アメリカで通報義務を金融機関に明示的に課しているのは現在15州程度であり、そのうち、当該義務を明示的に課しているフロリダ州、明示的には課していない(しかし通報が自発的になされると言われている)イリノイ州、オレゴン州を対象に調査を行った。その結果、各州の高齢投資者保護法制はそれぞれ異なるものの、義務的通報、第三者への通知、情報共有、通報者の免責および記録の保持がその中心にあるように思われた。次年度は、この調査結果を踏まえ比較検討し(もっとも各州の通報に関するデータの比較は慎重に行う必要がある)、「義務的通報制度」の意義を考察する予定である。 後者については、関連する判例を遡って網羅的に読み込むことで、以下のような暫定的な結論に達した。それは、証券会社を含め金融機関は、原則として、顧客が詐欺にあっている等の疑いを持っても、それを通報する法的な義務はない(よって通報しなくても責任を課せられることはない)というのが伝統的な法の立場であり、これは各州に共通すること、また、制定法で明示的な通報義務が課せられたとしても、その義務違反の責任を被害者等の私人が問うことはできない(問えるのは公的機関のみ)と解釈されていることの2点である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、本年度にアメリカのFINRA(金融業規制機構)や州の規制当局を訪問しインタビューを行う予定であったが、行く前に、各州の高齢投資者保護法制をもう少し理解する必要があるように思い、本年度は、先に各州の高齢投資者保護法制の調査及びアメリカにおける証券会社の顧客に対して負う義務を検討した。ここで得られた知見をもとに、来年度は(本年度行う予定であった)現地調査をし、制度の実態をより正確に把握することに努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、投資詐欺等から高齢者を包括的かつ実効的に保護する方法を、証券会社に課す義務の観点から考察しようとするものであるが、本年度の調査で、アメリカの各州では、(証券会社について独立したルールが存在している連邦とは異なり、)証券会社を義務的通報者というよりむしろ、銀行・証券会社等を含めた金融機関を義務的通報者として規定・議論しているように思われた。そこで、来年度は、各州の比較検討を行う予定であるところ、検討対象を金融機関に課せられた義務に広げ、そこから証券会社の義務について考察することを試みる予定である。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、本年度にアメリカの現地調査に行く予定であったが、その前に、各州の高齢投資者保護法制をもう少し理解する必要があるように思い、本年度は、先に各州の高齢投資者保護法制の調査及びアメリカにおける証券会社の顧客に対して負う義務を検討した。来年度、(本年度行う予定であった)現地調査をする予定である。
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