2021 Fiscal Year Research-status Report
高齢投資者の保護法制に関する考察―証券会社の負う義務の視点から―
Project/Area Number |
19K01427
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
萬澤 陽子 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 准教授 (50434204)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 高齢顧客 / 通報義務 / 報告義務 / 金融機関 / 高齢投資者 / アメリカ / 日米比較 / 投資者保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、わが国における投資詐欺等から高齢者を保護する制度(高齢投資者保護法制)のあり方を模索するために、アメリカで採用されている「義務的通報制度」(顧客等に投資詐欺等が行われているという合理的疑いのある場合に、証券会社等の金融機関に規制当局への通報を義務付けるもの)の内容と実態について調査することをその内容とする。 本年度は、まず、2019年度の作業で行なった、証券会社等の金融機関に通報義務を課すことの法的意味の検討を、異なった視点から試みた。すなわち、2019年度の作業を通じて到達した暫定的結論(制定法で課せられた明示的な通報義務違反があったとしても、それを私人が(不法行為として)問うことはできない)について、会社法上の法制度を使った場合(金融機関が制定法で課せられている通報義務を怠ったため顧客の詐欺が行われてしまったとして、内部統制システムが欠如していたことの責任を、株主が株主代表訴訟で取締役に対して問うといった場合)にはどう解釈されるかを、会社法に関して最も強い影響力を持つ州の1つであるデラウェア州の判例を読み込んで調査した。こちらも暫定的ではあるが、取締役の責任は極めて認められにくいとの結論に達した。 このことも含め、これまで行なってきた作業から、金融機関は、制定法の規定がなければ、顧客が詐欺にあっている(詐欺を行っている)等の疑いを持っても、それを通報する法的な義務はないのが伝統的な法の立場で、仮に制定法で明示的な通報義務が課せられたとしても、その義務違反の責任を私人が不法行為・会社法上問うことはできないこと(執行は公的機関に限定されること)、義務違反の執行を公的機関がどの程度行っているか、各州については未だ有益なデータを入手できていない(本年度実施予定)ものの、連邦においては近年規制当局が執行に積極的であること(2020年度公表論文参照)が明らかになったと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、本年度にアメリカのFINRA(金融業規制機構)や州の規制当局への訪問・インタビュー、データ収集を行う予定であったが、コロナウィルスの影響で行うことができなかった。他方、これまでの作業から、金融機関に課せられた通報義務の執行についてさまざまな面から検討・分析ができた。来年度は、これらの知見を活かして現地調査に臨みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、現地調査を行ってデータを収集し、各州間の「義務的通報制度」の比較を行うこと、また、(データを入手できれば)他の「義務的通報制度」(例えば、身体的虐待に関する同制度(医療関係者に課せられる通報義務等))と比較することを通じて、金融機関に課せられる通報義務の法的意義を考察したいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初は、本年度にアメリカの現地調査に行く予定であったが、コロナウィルスの影響で変更せざるを得なかった。来年度、(本年度予定していた)現地調査を行う予定である。
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