2023 Fiscal Year Research-status Report
高齢投資者の保護法制に関する考察―証券会社の負う義務の視点から―
Project/Area Number |
19K01427
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
萬澤 陽子 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 准教授 (50434204)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 高齢顧客 / 投資詐欺 / アメリカ / 投資者保護 / エンフォースメント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、わが国における高齢投資者保護法制のあり方を模索するために、アメリカにおいて証券業者等に課せられる「義務的通報制度」ついて調査するものである。 本年度は、連邦における「義務的通報制度」の最近の執行状況の調査を行った。2020年「研究実施状況報告書」に記載したとおり、2020年12月に連邦控訴裁判所において、証券業者が顧客の疑わしい取引を規制当局(SEC)に報告しなかったことは証券取引所法違反に当たること、SECはその責任を追及する権限を有することが認められた。同判決が出されたことに加えて、この制度に変更があった2010年代前半以降、高齢者に対する金銭的虐待に関する報告件数は大きく増加しており、連邦における「義務的通報制度」の実効性を確保する状況が相当整ったのではないかと思われるところ、SECによる執行が2020年以降も民事訴訟(2023 WL 6194880 (S.D.N.Y. Sep. 22, 2023等)及び行政手続(2023 WL 4455984(July 11, 2023)等)によって行われていることを確認した。 また、州における高齢投資者保護制度の調査も行った。下記に記載したとおり、州においては投資詐欺等から高齢者を実効的に保護するために、義務的通報制度よりむしろ他の方法が取られていると考え、この分野で最も進んでいると思われるカリフォルニア州における法制度を調査した。カリフォルニア州では、この分野において2008年に大きな改正がなされて以降、金銭的虐待に関する私人による訴訟提起数が大きく上昇しており、特に最近では2021年以降その数は劇的に増えて、これまでに提起された訴訟数がおよそ2000件近いことがわかった。それらがどのようなものか(誰が、何について、何に基づいて、どのような救済を求めているのか)を読み込み、分類分けをする作業を現在行なっているところである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
州における義務的通報制度の位置付けが、当初考えていたものとは異なっていた(義務的通報制度を採用している州は相当数あることから、州においてもその重要性は認識されていると考えていたが、これまで高齢投資者に対する保護法制に関する論文や書籍(実務家向けのものも含め)及び判例を調査してきた中で、私自身が見る限り、それはほとんど取り上げられていなかった)。そこで、州では投資詐欺等から高齢者を包括的かつ実効的に保護するために、むしろ他の方法が取られていると考え、若干軌道修正する必要性が生じた。
|
Strategy for Future Research Activity |
カリフォルニア州における、金銭的虐待に関する訴訟が2000件近く起こされていることがわかり、これらが、誰によって、何について、何に基づいて、どのような救済を求めて提起されているのかを考察するために、判例を網羅的に読み込んで、分類分けをする作業を続ける。その上で、2008年の法改正との関連で、これらの訴訟を検討し、カリフォルニア州において、どの程度、高齢者が投資詐欺等から包括的かつ実効的に保護されているかを考察する。
|
Causes of Carryover |
本年度は、現地調査を予定していたが、先方との調整や日程が合わず、実施できなかった。次年度は、現在進めている作業の進捗状況を見ながら、現地調査を計画する予定である。
|