2019 Fiscal Year Research-status Report
福祉型信託による高齢者および未成年者の財産管理と法的課題の複眼的研究
Project/Area Number |
19K01437
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Research Institution | Osaka University of Economics |
Principal Investigator |
橋谷 聡一 大阪経済大学, 経営学部, 准教授 (20632706)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古賀 敬作 大阪経済大学, 経営学部, 准教授 (10734535)
四條 北斗 大阪経済大学, 経営学部, 准教授 (60648046)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 福祉型の信託 / 福祉信託 / 被害者保護 / 横領罪 / 親族相盗例 / 成年後見 / 意思無能力 / 信託 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、その有する財産の管理・保護について特に慎重な配慮が必要になる、親亡き後の障がいのある子、子のいない高齢者、及び親を亡くした未成年者を念頭に、適切な財産の管理および保護のしくみとしての福祉型信託の制度および運用の在り方を検討するものである。 信託法の観点からは、福祉型の信託の定義について、信託法制定時、国会附帯決議において挙げられた高齢者と障がい者が受益者である場合に限るとその範囲は狭すぎるため、社会保障法、社会福祉学領域の研究を行い、福祉型の信託の定義については、受益者が、福祉サービスの利用者(社会福祉法1条)である場合を広義の福祉型信託とすべきとの結論に至っている。(※公刊した業績はない) 次いで、刑事法の観点からは、現行法における高齢者や親を亡くした子どもなどの社会的弱者の財産侵害に対する補償、親族間における財産侵害に関する刑法の解釈適用上の諸問題、及び被害者学関連の基礎文献を収集し、それらの文献を用いて現状および論点の整理を行った。これにより、従来の刑事法のアプローチの範疇を明確にし、他方で被害者に焦点を当てた場合の課題を明らかにするための基礎的研究を遂行した。(※公刊した業績はない) 最後に、税法の観点からは、福祉型の信託における相続税・贈与税の課税のあり方を考察するに先立ち、成年後見人制度と信託の文脈において、成年後見人制度の深化に伴う課税上の諸問題について、とりわけ意思無能力者の申告・納税義務の存否について、租税判例事案も踏まえ解析を行い、後見人制度の発展ないし法解釈のあり方の進展が少なくとも租税法域に影響を徐々に及ぼしてきているとの見解を示した。また,遺産・事業承継における信託の課税上の評価を検討素材とし、信託法と税制との交錯・乖離を同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
福祉との語を踏まえながら、あらためて福祉型の信託において、どのような受益者がその対象となるかを考察した場合、現在受益者が置かれている状況という客観的な観点に固定してその対象を考察する必要がある。 これに加えて、この福祉との語を踏まえれば、学術上の定義づけの下で受益者の性質について限定して論じなければ、議論が拡散する惧れがあり実際的な研究とならない。そこで、社会保障法、社会福祉学領域ついて各分野の専門的文献を調査し、それを踏まえ福祉型の信託の受益者をどのように定位すべきかについて、再考を迫られることとなった。 この基礎研究が行われたことから、刑事法の観点からの研究において、既存の法制度や法解釈の射程や被害者保護の在り方の探究について、若干の遅れが生じた。 また、税法の観点からは、後見制度支援信託の枠組みについて、福祉型の信託における重要な財産の長期的管理機能(①意思凍結機能、②受益者連続機能、③受託者裁量機能、④財産権の性状の転換機能)と法律上の構成との関係において、考えるべき種々の課税上の問題点の調査分析および精査に若干の遅れがある。
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Strategy for Future Research Activity |
福祉型の信託において、想定される受益者として、親亡き後の障がいのある子、子のいない高齢者、及び親を亡くした未成年者を挙げた。 そこで、社会保障法、社会福祉学における学術体系を参照し、福祉型信託の受益者として、広義には福祉サービスの利用者(社会福祉法1条)、狭義には社会扶助、なかでも社会サービスに分類される制度の対象者である、児童福祉法、障害者総合支援法、老人福祉法等の対象者を位置付けることが、信託法のみならず、社会保障法制や社会福祉学との整合という観点から、重要であるとの中間的な結論に至っている。そこで、この福祉型の信託が民事信託で行われる場合や家族信託で行われる場合の信託受託者の監督関係に着目して、整理を加える。 また、上記の定義を意識し、現行の被害者保護制度や関連刑罰法規の解釈について、具体的な事案を踏まえた整理を行う。それを通して、刑事法領域における課題を見出し、研究分担者間の研究動向と調整をしつつ、刑事法領域の課題やそれに対するアプローチの在り方について、具体的な検討を加える。 福祉型の信託の発展のためには、受託者の裁量が望まれるが、受託者裁量信託にはみなし受益者および特定委託者の制度の理解が不可欠である。この制度は法律的には受益権を有しない者を受益者とみなして課税する制度であるから、納税者としては納得のいく説明が欲しいところであるが、この点、アメリカの福祉型信託に関する序論的先行研究が存するため、イギリスに加えアメリカの信託課税制度を調査分析していくこととする。
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Causes of Carryover |
福祉型の信託、あるいは福祉型信託における受益者をどのように画するかについて、本研究の対象としては、高齢者や親を亡くした子ども等を想定しているが、福祉型の信託、あるいは福祉型信託という用語それ自体を定義をする場合には、これでは不十分であることから、社会保障法、及び社会福祉学の学術領域の研究を先行する必要が生じ、この定義に関する研究を行ったことにより研究全体について、若干の遅れが生じている。 そのため、用語の定義を踏まえて行う必要がある信託法以外の分野の研究費の執行についても遅延が生じることとなったため、次年度使用額が生じた。 2020年度については、研究内容を整合させながら、研究の遅れを補うこととしており、活発な研究活動を行う予定である。また、文献研究だけではなく、調査を行う必要があることから、適切に研究費を執行する予定である。
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