2019 Fiscal Year Research-status Report
公教育と社会活動を通じた政治統合の日加豪3ヵ国比較研究―流動化する時代の政策対応
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19K01464
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
加茂 利男 立命館大学, 法学部, 非常勤講師 (80047357)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 雅俊 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (10543514)
新川 敏光 法政大学, 法学部, 教授 (30216212)
徳久 恭子 立命館大学, 法学部, 教授 (60440997)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 福祉国家 / 社会的包摂 / 政治統合 / 社会統合 / シティズンシップ教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、経済のグローバル化と脱工業化により、第二次世界大戦後の先進諸国の政治経済社会秩序とされた「国民国家―代議制民主主義―福祉国家」システムが動揺する中で、新たな政治統合や社会統合がどのように進められようとしているかを明らかにしようとするものである。この目的に即し、本年度は、「リスケーリング」という概念に注目しながら、福祉国家の再編に関する理論的な研究を進めた。 戦後においては、経済的な均質性(分厚い中層の存在)と社会保障、政治参加の平等性と限定的な越境が国内秩序の安定をもたらしたが、脱工業化やグローバル化は経済格差の拡大と社会秩序の流動性を高め、国内秩序を不安定化させた。我々は文献研究を通じて、一連の変化への対応を迫られた政府は、国家という単位ではなく、より小さな単位での社会的包摂(社会的統合)を試みる一方で、政治統合のための言説(シティズンシップ教育)を提供することで、国内秩序の再構築を試みていることを明らかにした。すなわち、国家は分権化と再集権化を同時に行いながら、政治統合を図ろうとすることが予想されたのである。 この問題について、新川と加藤が理論研究を進め、研究成果を発信する一方、徳久は社会的包摂の諸実践を行うコミュニティへの注目が日本においてどのように生成され、社会統合の手段として活用されるようになったかを明らかにした。研究代表者の加茂は全体の進捗管理を行いつつ、分担者の研究に適宜コメントを付し、研究成果を発信を支援した。 研究代表者と分担者からなる研究会では、2020年2月~3月にかけての海外調査や研究合宿の進行などを計画したが、この点については、別項のとおり、COVID-19の影響で中止や延期を余儀なくされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)拡大の影響により3月に実施を予定していた研究合宿や研究調査の延期、取りやめを余儀なくされた。本年度は、研究分担者の加藤と徳久がトロントで予備調査を行うことを予定していたが、中断を余儀なくされている状況にある。海外渡航のみならず、国内についても現地に出向いてのヒアリング調査は当面難しいと予想される。このため、2019年度に限らず、2020年度についても調査の大幅な見直しを余儀なくされている。 他方で、2019年度については、加藤と徳久がカナダ政治学会で研究成果の一部を発信する試みや、従前からの研究を発展させる形で研究成果を発信するなどの成果もあげている。 以上のことから、2019年度の研究については、「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス感染症拡大の影響は2020年度中に及ぶと予想されることから、調査期間も含めた大幅な見直しが必要と思われる。そこで、今年度(2020年度)は文献研究を中心に行い、オンライン会議を活用しながら理論構築に力点を置く。 他方で、国内の事例研究については、アンケート調査やオンラインでのヒアリング調査の可能性を模索する。ただし、COVID-19の影響が収まり、調査出張が可能な状況になれば、対面型のヒアリング調査に切り替えることを予定している。 海外調査(カナダとオーストラリア)については、2021年度に実施し、学術振興会の承認が得られれば、研究期間を1年延期し、2022年度にも追加調査を行うことで、当初の予定に即する形で研究を推進したいと考える。 COVID-19の影響で研究計画の見直しを余儀なくされることは、調査型研究に共通する問題と考えるが、本研究は見直しを好機と捉えたい。というのも、本研究が注目する戦後秩序、すなわち、「国民国家―代議制民主主義―福祉国家」システムに関する研究には、特定のバイアスがあるとも考えているからである。そこで、分厚い理論研究を行うと同時に、オンラインを活用しながら、日本の政治学者へのオーラルヒストリーを進め、構造への関心の後退が近年の研究にどのような特徴と限界をもたらしたかについても検討を進めることで、研究申請の段階では予定していなかった「政治学説史」研究にも貢献したいと考える。
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Causes of Carryover |
2019年6月に参加したカナダ政治学会で在外研究中の研究者から現地でのヒアリング調査について協力が得られることになったため、2020年2月下旬から3月上旬にかけてトロントでの調査を行うことを予定していた。しかしながら、新型コロナウィルス感染症拡大の影響で渡航自粛が求められたため、調査の延期を余儀なくされた。同様の理由から、3月に予定した国内の研究合宿も見送られたため、調査に関わる旅費や人件費等の執行に至らず、次年度に繰り越すこととなった。 2020年度は、COVID-19拡大の影響により調査出張そのものが難しくなると予想される。そのため、文献研究やオンラインでのオーラルヒストリーを軸に、国内については、オンラインのヒアリング調査やアンケート調査の実施を予定する。このための費用は、2019年度から繰り越された出張旅費の一部を充てる。 他方で、COVID-19の影響が収まり、調査出張が可能になった場合には、当初予定を一部実施する。その際にも、研究代表者や分担者の健康状態との兼ね合いを十分に配慮して計画を見直すことは言うまでもない。COVID-19は未曽有の事態であり、場合によっては、調査出張を2021年度に先送りすることも念頭に入れて対応する。
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Research Products
(9 results)