2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K01501
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
友次 晋介 広島大学, 平和センター, 准教授 (90622019)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 原子力平和利用 |
Outline of Annual Research Achievements |
国際原子力機関(IAEA)と外務省内の議論を明らかにした。第一に「アジア太平洋のための原子力科学技術に関する研究、開発、及び訓練のための地域協力協定」(RCA)の前身で1965年1月に発足した「インド・フィリピン・IAEA中性子結晶分光計画」(IPA)の成立過程を明らかにした。まず1962年12月バンコク開催の「研究炉活用に関する研究グループ」会合で、東南アジアの原子炉拠点間の中性子ビーム研究協力のアイデアが提起され、1964年10月にブカレストでのIAEA会合においてインド代表が中性子・結晶分光器を用いた固体物理学研究の開始と東南アジア諸国の研究炉への機材と専門家の提供を提案したことでIPA設立に至った。第二に、その後IPAの発展形としてRCA協定が1972年6月に発効するまでの過程を跡付けた。1969年3月、マニラでのIAEA会合で、IAEA協賛の下でのより広範な地域協力枠組みの発足が勧告されたことがRCAの実現につながった。本研究はD.フィッシャー(David Fischer)IAEA事務局長補がRCA発足に向け示した所見、U.ゴスワミ(Upendra Goswami)IAEA経済技術援助局局長が向けて取った行動と議論に関しても検討した。第三には、H.グルブレヒト(Hellmut Glubrecht)IAEA事務局次長、H.F.S.ビッテンコート(H.F.S. Bittencourt)IAEA事務局次長が日本の外務省に対し、どのようにRCA参加を働きかけたのか、これに対し外務省がいかなる情勢認識を示したのか、当時の国際関係、日本外交を照合しつつ明らかにした。外務省内には福田ドクトリンと結び付け日本のRCAへの参加を表明すべきとの考えがあったことや、RCAに参加しなければ欧米がアジア諸国のアイソトープ市場を席巻し、日本の利益が損なわれるとの懸念が存在したことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、日本が(1)1950 年~60年代に科学研究、医療を目的としたラジオアイソトープ(RI)の利用訓練の提供を開始したこと、(2)1978年に、IAEA主導の「原 力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」に加盟し、アジア諸国との原子力協力を拡大したこと、及び(3)1990年に「アジア地域原子力協力国際会議」(ICNCA)を発足させ、1999年には「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)へと発展させたことに着目し、これらの政治過程と国際的背景を検討することを目的としているが、令和3年度では、(2)についてこれまでの研究を精緻化して、論文として発表した(「『アジア太平洋のための原子力科学技術に関する研究、開発、及び訓練のための地域協力協定』(RCA)の展開 : 『インド-フィリピン-IAEA中性子結晶分光計画』(IPA)の離陸から日本のRCAへの参画まで」『広島平和科学』43巻157-174頁)にまとめることができた。(1)については既に令和元年にMichael D. Gordin (Editor), G. John Ikenberry (Editor)の共著図書に著者として寄稿している。したがって研究の三つの柱の内二つは論文化できており、(3)の調査と論文、あるいは(1)~(3)を総括する単著論文の発表が残された課題となった。
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Strategy for Future Research Activity |
ベトナム、インドネシア等の東南アジア諸国の原子力当局者へのインタビューを行う。「有沢広巳旧蔵 社会政策・エネルギー政策関係資料集第二部エネルギー政策関係資料」の簿冊「原子力国際問題等懇談会」(アジア原子力協力調査団関連の文書を含む)及び「我妻栄関係文書第三部」の簿冊「「昭和36年12月 原子力委員会参与会資料(三)その一」綴」を幅広に調査し、またNucleonics Week等、原子力産業雑誌の1970年代~1980年代記事の渉猟と分析を行う。これによって「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)に関することのみを詳細に分析する論文、あるいは1980年代までの戦後日本の対アジア原子力外交の全体像について考察する論文を作成する。
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Causes of Carryover |
本研究の主たる方法は非デジタル化文書・史料を所蔵する、国内外の文書館に直接出向いて史料調査を行うというものであるが、新型コロナ感染症の感染拡大と繰り返される移動制限の要請、ならびに文書館の閉鎖や利用制限などによって、そのことが十分果たせず、旅費が未使用となったためである。令和4年度の米国での大統領図書館における史料調査や、タイ、ベトナム等東南アジア諸国の原子力当局者へのインタビュー調査に充当する。
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