2020 Fiscal Year Research-status Report
Studies on Effects of Initial Conditions on Dynamic Stability and Efficiency of Market Equilibrium
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19K01558
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
下村 研一 神戸大学, 経済経営研究所, 教授 (90252527)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
瀋 俊毅 神戸大学, 経済経営研究所, 教授 (10432460)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 交換経済 / 完全競争 / 均衡の安定性 / 標準形ゲーム / 混合戦略 / 完全競争均衡 / パレート効率性 / 初期条件 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一の研究は,交換経済の実験分析である.前年度までに東京工業大学の研究チームと行った2種類の財・2タイプの消費者多数のダブルオークション実験の結果が消費者間の初期保有の分配によりどのように変化するかを整理された実験データに統計分析を加え,実験モデルの原型である競争均衡の理論の解説を付録として,共同研究者で協力しディスカッションペーパーにまとめた.本論文で,下村は主として理論モデルの設定と均衡理論に基づいた予測を,瀋はデータの統計分析を執筆した.ディスカッションペーパーについては,海外の研究者から得られた有益なコメントを受けて,神戸大学と東京工業大学の共同研究者でオンライン会議を開催して議論を行い,論文を改訂した.
第二の研究は,交換経済の理論分析である.今年度は以前より未解決であった3種類の財と3タイプの消費者が存在する交換経済の競争均衡の存在と安定性について再考した.消費者全員が標準的な関数形の効用関数を有しているときも初期保有の分配により,各財の価格の上昇幅と下落幅がそれぞれ財の超過需要と超過供給に比例するという仮定の下,大域的に不安定な競争均衡が発生することと調整過程における価格の動学的経路のシミュレーションを行い,その結果を神戸大学と東京工業大学の共同研究者と検討した.目視では初期条件のパラメターがある範囲内になると動学的経路が一定のパターンを取っているように見えたので,その現象の定性的な証明を試みた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの影響により,国内出張と海外出張,および被験者を集めた対面実験ができなくなった.これに対して,既に行った実験データの再検討,テレビ電話による遠隔会議の開催,国内の専門家への指導助言の依頼,そして海外の専門家との電子メールを通じた議論を行ったが,遠隔中心の研究に慣れるまで研究の進捗は予定よりやや遅れた.
交換経済の価格調整過程の実験研究は,東京工業大学の研究チーム,研究代表者の下村,そして研究分担者の瀋と共同で,海外の実験経済学の専門家からのコメントを踏まえてミーティングを行い,論文を改訂した.改訂のポイントは消費者の初期条件を構成する外生的なパラメターの一部を実験途中で恣意的に変更し,それに対して観察された被験者の反応を精査したことを正しく伝えることであった.この改訂稿に対して,海外の別の実験経済学の専門家から詳細なコメントがあり,追実験でデータを増やしかつ別の統計分析を行う必要性を認識した.しかし,新型コロナウイルスの影響により,追実験の計画の構想は固まったが実施と分析は断念した.
交換経済の競争均衡の存在と安定性の理論研究は,東京工業大学と神戸大学の共同研究者と研究代表者の下村とで断続的に行っていたものである.モデルの消費者の効用関数は標準的かつ具体的で,均衡価格体系の1つは容易に判明する.にもかかわらず研究が完了しない理由は,初期条件が自明な場合を除き,均衡に到達するまでの動学的経路の大域的形状と他の均衡の存在が定性的に求められておらず,計算ソフトによるシミュレーションの目視の結果のみであることに因る.そこで,国内の微分方程式の専門家と数理生物学の専門家に問題を説明し,解決の方向性についてそれぞれから書面と対面でコメントを頂いた.特に,数理生物学者の先生から変数変換の利用を示唆され試みたが,定性的分析の進展には結びつかなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
交換経済における価格調整過程の安定性と不安定性が「どの消費者がどの財をどれくらい有しているか」という初期条件に依存するという理論予測は検証した実験データにより有意性が確かめられ,ディスカッションペーパーの中で報告された.しかし,海外の実験経済学の専門家からのコメントを受け,追実験によりデータを増やすことと別の方法で統計分析を行う必要性を共同研究者とも共通に認識している.その際に示唆された統計分析の方法は,研究代表者の下村も,応用計量経済学が専門である研究分担者の瀋も念頭になかったため現在その方法論的背景を検討中である.
一方,交換経済の競争均衡の存在と安定性に関する研究では,前者については,最低1つの均衡があることはわかっているので,複数均衡が出現するときの初期条件の特徴づけが今後の課題である.均衡価格が一意でないので,市場の超過需要関数が「顕示選好の弱公理」を満足していないことは判明するが,この条件を満足していなくても均衡価格が一意であることもあるので,今後は効用関数のパラメターと初期保有の分配という基礎条件から複数均衡出現の特徴づけに取り組んでみたい.後者については,形式的には連立微分方程式の動学経路の分析に帰着するが,シミュレーションだけでなく定性的分析の可能性をもう少し探ってみたい.
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Causes of Carryover |
予定していた下村(研究代表者)と瀋(研究分担者)のそれぞれの国外出張が新型コロナウイルスの影響により中止せざるをえなくなった.国内出張も昨年度は厳しい制限の中で行われ,特に兵庫県外で流行地域とされる都道府県への出張を自粛したことにより,2021年度使用額に繰り越しの当該助成金が生じた.
2021年度も新型コロナウイルスの影響で研究打ち合わせは遠隔会議によることが多いことが予想されるが,もし可能ならば時期を見計らい,研究費を使用して被験者実験を行いたい.また出張の自粛期間が終了次第,延期した国内出張を行う予定であるが,もし今年度も自粛期間が継続する場合は,遠くの研究者とはオンラインで打ち合わせを行ない,近隣の大学の専門家には研究費を使用して進行中の研究に対する指導助言を依頼する計画である.
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Research Products
(7 results)