2019 Fiscal Year Research-status Report
将来世代にわたる災害の影響を減殺する生活再建政策に関する提言
Project/Area Number |
19K01629
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
堀江 進也 神戸大学, 経済学研究科, 准教授 (50633468)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
入谷 純 大阪学院大学, 経済学部, 教授 (30107106)
藤井 隆雄 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (80547216)
安岡 匡也 関西学院大学, 経済学部, 教授 (90437434)
土居 潤子 関西大学, 経済学部, 教授 (00367947)
佐藤 純恵 神戸大学, 社会システムイノベーションセンター, 研究支援推進員 (70623388)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 所得分布 / 稼得能力 / 社会保障 / 人的資本 / 災害 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、3それぞれ以下のようにプロジェクトを進めた。 実証分析チーム):component abilityにと被災経験に関するアンケートの作成と実施が中心となった(進捗参照)この間、堀江と佐藤は個人が受けうる被災による資産の毀損についてのも推計が可能かどうかを考察した。これは物的資産の毀損が、その後の転職などを通じて稼得能力へ影響する可能性を考慮したためである。個人レベルでそれを把握するためにはアンケートによるデータ収集が望ましいが、時間が経過しすぎた場合はそれは難しい。このため、それぞれの個人の居住地の平均的な物的資産損失量を推定する技術を考えることにした。まずその準備として、災害による広域なマクロレベルでの資産の毀損(=ストック被害)の推定を行った。推定にあたり、過去の地震をさかのぼり県レベルの物的被害額、地震発災時の資本ストック(公的施設などのインフラ、住宅・社屋などの物的資産)データを用いて、これを市町村別の人口によって案分したものと、地震による各地の震度により、ストック被害を震度と資本ストック量(金額表示されている)の関数として推定を行った。(豊田ら,2020)。 マクロ生産関数チーム:安岡は、賦課方式年金に老後の介護への補助金を含む場合、若年世代が正規雇用へ就業をより活発にするこを明らかにした(Yasuoka, 2019)。本プロジェクトにおいて稼得能力(=労働生産性)は、労働者が外生的に装備している能力の関数としてとらえている。しかし、労働市場均衡における賃金は、職種や就業形態の選択を通じて内省的に決まっているものであるので、この点は、アンケートの回答のそれぞれが該当する社会保障制度によってグループを分けなどを考慮にしなければならないことを示唆する。 中心極限定理チーム:論文刊行あるいは学会発表には至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、実証研究チームはcomponent abilityの候補になりうる認知能力・非認知能力に関するデータを収集することを目標とし、その目標は達成されている。賃金と就業時間の積としての所得の分布と、稼得能力すなわち賃金の決定要因としてと議論されている諸変数に加えて、認知能力として3種のタスク指標(Abstract、Routine、Manual)、学校教育時における数学、国語、英語に関する主観的な力などを中心に、非認知能力については心理学で用いられるBig5、Grit Scale(やりぬく力)、自制心、心理的・社交的・業務遂行上の社会適合性を中心にデータを収集した。また、災害のような外生的なショックについては、過去の経験を訪ねるという形でデータを収集した。データの収集は、申請者らによってデザインしたアンケートを、楽天インサイトに実施を依頼する形でWebアンケートによって行った。現状、分布を推定したところ、それぞれの能力が混合正規分布の形状を示していることが分かっており、同時に所得が混合対数正規分布を示していることが分かっている。 中心極限定理チームは、モンテカルロ実験から生成した正規分布に従って分布しかつ互いに相関する有限個の変数の関数値が正規分布に収束するかを検証している。正規分布に従う無限個の変数の関数値が正規性をもって分布することは理論的にはすでに示されている(中心極限定理)が、これが有限個である場合はどの程度の数が必要であるか、すなわち本プロジェクトにおいて「どれだけの個数のcomponent abilityを準備するべきか」の検証を行っている。このプロセスにおいて、中心極限定理では仮定されている変数間の独立性が、シミュレーションによる分析から、必要でないかのような結果を得ているため、検証手続きに問題がないか考察しているところである。これらは、予定通りの進捗である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、次のようにプロジェクトを進める予定である。 1.実証分析チーム:2019年度に収集したデータに基づいて、スタンダードな賃金決定要因の分析を行いつつ(ステップ1)、プロジェクト申請時に予定した通り、それぞれのcomponent abilityの候補の中で、賃金の分布並びに所得(=賃金×就業時間)の分布を最も近い形で生成するものを探索する。それに先立ち、所得やcomponent abilityの分布が混合正規分布を示していることから、これらを複数の正規分布の分解することを8月までに完了し、現れたグループの特徴を記述する(ステップ2)。これらそれぞれのステップについて論文を執筆し、秋期の日本応用経済学会大会での報告ならびに論文投稿を目指す。 2.中心極限定理チーム:現在、中心極限定理の理論上で仮定されている確率変数間の独立性が、シミュレーション上では必要な以下のような結果を得ている。しかし、これは何らかの技術的な失敗から発生した結果である可能性が高いため、この問題を解決する。 3.マクロ生産関数チーム:現状で、労働効率性(=労働力の限界生産力)の指標である平均賃金と最低賃金の比率を検証した所、最低賃金を基準とした労働者の1人当たりの生産性は直近20年で低下していることが分かっている。データ上でこのような結果がみられる理由は次のように様々考えられる。・賃金デフレが進んだ一方で、最低賃金は増加の一方をたどった。 時間当たり最低賃金は595円(1994)から798(2015)まで増えた。 一方で、賃金水準自体は、90年代後半より減少傾向にある。・非正規雇用の比率が増えた。あるいは男女ともに非正規雇用の比率が上昇している。相対的に正社員に比べて賃金水準が低い雇用者が増えたことが労働の効率性の指標の低下をもたらしていると考えられる。これらを説明できる生産関数の表現を考察する。
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Causes of Carryover |
本年度の支出において、もっとも多額の費用がかかるものとしてアンケートの委託費用があった。しかし、これについて契約時に決定していたサンプルサイズよりも小さいサンプルしか集めることができなかったことから、返金が発生した。これにより予定よりも費用が少額になってしまったことが主な原因である。この差額は、来年度(2020年度)において、新しく質問項目を立てて本年度の解答者に追跡のアンケートの実施という形で改めてアンケートを実施することが、component abilityの候補を増やすことができるので、予算の繰越をすることが妥当であると判断した。想定している新しい質問項目として、non-cognitive sikillsとして考えられている、情熱・批判的思考技術が考えられる。これらの指標を構成するためには、総じて50項目前後の質問をする必要がある。委託時の契約上、5間尺度での質問は5項目で通常のアンケートの質問の1問に相当して換算される。これを800人を対象としたアンケートを委託する。このアンケート委託費は本年度の繰越金で賄うことが可能であると判断される。
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