2020 Fiscal Year Research-status Report
将来世代にわたる災害の影響を減殺する生活再建政策に関する提言
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19K01629
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Research Institution | Onomichi City University |
Principal Investigator |
堀江 進也 尾道市立大学, 経済情報学部, 准教授 (50633468)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
入谷 純 大阪学院大学, 経済学部, 教授 (30107106)
藤井 隆雄 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (80547216)
安岡 匡也 関西学院大学, 経済学部, 教授 (90437434)
土居 潤子 関西大学, 経済学部, 教授 (00367947)
佐藤 純恵 名古屋経済大学, 経済学部, 准教授 (70623388)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 老年世代の労働市場への再参入 / 生産関数の集計 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、収集済みのデータを用いた分析を進めつつ、以下の2点の理論的な分析に関する成果を上げた。すなわち、1:稼得能力の変動が認められる老年世代による退職後の労働市場への参入が若年世代の労働市場でのパフォーマンスに与える影響について(Watanabe and Yasuoka、2021, Journal of Interdisciplinary Economics)、2:災害時に労働市場への影響として顕著に表れるサプライチェーンの分断の分析の準備とした生産部門の集計の構築(土井・藤井・堀江・入谷・佐藤・安岡, 2021, 未刊行)である。以下、これらの概要を説明する。 1:高齢化社会における、加齢を理由とした退職によって一度退出した労働者の稼得能力の変化(賃金と労働時間として表出する)と同時に、老年世代が再度労働市場に参入することによる若年世代の賃金への影響を分析した。失業はゼロ賃金と考える。この中で、企業は高齢世代を低賃金で雇用することで、若年世代の中でも生産力の低いグループに対する賃金を低くしながら両者を代替的に雇用するが、失業(ゼロ賃金)の発生という形での影響は非常に限定的であることが分かった。 2:集計経済の構築においては、2部門経済を1部門経済に集計することを目標とした。これまでの議論では、異なる部門生産関数、部門全要素生産性(TFP)そして財価格が、それぞれ集計生産関数、集計TFPさらに物価に集計される。生産関数の集計には多くの研究蓄積があり、異なる生産関数の集計には困難があるとされている。本稿では、均衡に着目することによって困難を回避し、均衡の誘導形として集計生産関数・集計TFP・物価が同時決定的に定まることを示した。その結果集計生産関数の生産物の価値が、集計前の各部門の生産物価値の和であること示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、労働者の稼得能力への外生的ショックが所得分布上の異なるコーホートへ与える影響の差と、差が現れる源泉となる能力の探求を目標としてる。この外生ショックに含まれるものにはいわゆる災害などが挙げられる。しかしそれ以外のショックとして、加齢(外生)を理由とした退職によって一度退出した労働者の稼得能力の変化(賃金と労働時間として表出する)と同時に、老年コーホートが再度労働市場に参入することも考えることができる若年層の労働市場での稼得能力の変化について理論的に議論することは重要である。分析の結果、老年コーホートのサイズの増大が若年コーホートでの失業(ゼロ賃金)の増加要因として現れることが限定的であり、あくまで賃金の減少要因として現れることが分かり、しかもこの影響も小さいことが分かった。すなわち、データの分析においては、アンケート収集を行った年度の労働市場における年齢構成の影響は無視できるということになる。これは、非常に重要な前進である。また、集計経済の構築の理論分析は、被災地における産業の生産工程ごとの最適化(=労働需要の決定)を、細分化して考慮することと、各業種ごとの一本の生産工程全体(サプライチェーン)による最適化の間の整合性を担保することができることを示す準備ができた。このため、均衡における賃金と労働時間(=稼得能力)における議論を行う際に、それぞれの労働者がどのような能力を持ち、どのようなタスクに従事していたという具合に稼得能力の分解を行う際に、生産工程の位置によってコーホートを分ける必要がない。今後の分析の簡便化のためには重要な材料である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、1:加工したデータを、リバーシブルMCMCアルゴリズムを用いて混合分布を生成する複数の所得分布を特定して、それぞれの分布に対数正規性を担保する。災害による経済格差の発生を捉え、所得パス・資産形成パスの下方シフトを捉えるために、クラスター化された所得分布の特徴を議論する。その後、それぞれのクラスターに含まれる家計につき、クラスターごとにmajor component abilityを探索する。被災の有無によって事前にサンプルを分けた場合には、同種のmajor component abilityの分布の平均間に優位な差があるかどうかの検定を行う。これにより、災害が家計の稼得能力を構成するmajor component abilityを通じて所得分布に与える影響を考察する。この後、将来世代が現世代と同 様 の major component abilityを持つと仮定し、クラス タ ー ご と に major component abilityを補完・発達させるような人的資本蓄積の行動についての、回帰分析を行う。これにより、災害が将来世代へ与える影響を考察する。2:2020年度に分析を行った集計経済の構築を一歩進め、現段階では稼得能力の決定においては労働市場の需要側で役割を果たす企業のサプライチェーンにおける資源(労働と資本)の配分の決定が、生産工程のそれぞれにおける中間財生産部門と最終財生産部門、さらに生産工程をすべてまとめ上げたサプライチェーンでそれぞれ互いに整合的かを理論的に考察する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の予防のため、他府県への出張を控えた。このため、研究集会をオンラインで行うことが基本となった。また、学会もオンラインで開催されたため、予定していた旅費が発生しなかった。今年度も、旅費が発生しない可能性が十分に高いため、可能な範囲でアンケートを追加的に行うことを計画する。コロナ禍は外生的な稼得能力の変動としてとらえられるため、本事業の性質上この追跡調査は非常に大きな意味を持つ。
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