2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K01685
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Research Institution | Nagoya Gakuin University |
Principal Investigator |
上山 仁恵 名古屋学院大学, 経済学部, 教授 (90295618)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 少額投資非課税制度 / NISA / 家計 / 個人投資家 / 資産選択 / ポートフォリオ分析 / 証券市場 / 証券投資 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、2014年1月からスタートした少額投資非課税制度(通称NISA)の日本人の資産選択の行動に与える政策効果を検証することである。具体的な分析内容は、①NISAにより新規の投資家を増やしたのか(証券市場への参入効果に対する検証)、及び②NISAは新規投資家を育てたのか(証券市場参入後の行動分析)、の2点について明らかにすることである。 今年5月5日、岸田総理はロンドンで講演を行い、岸田政権の経済政策である「新しい資本主義」の具体策として、個人の金融資産約2000兆円を貯蓄から投資へと誘導する「資産所得倍増プラン」を始めると表明している。NISAは投資を促すための証券投資に対する優遇政策であり、NISAが日本人の投資行動に与える影響について検証することは、岸田政権の経済政策を評価する上でも重要な意義を持つ。 以上を踏まえ、2021年度の研究実績は、上記に提示した本研究の目的と照らし合わせ以下の通りである。まず、①のNISAの証券市場参入効果の研究については、実証分析よりNISAはそれほど高い金融リテラシーを備えていない層の証券市場への参入を促していることが判明した。さらに、②のNISAを通した証券市場参入後の行動については、NISA口座を開設しても、金融に対する自信や貯蓄意欲といった金融コンピテンシー力が低い場合、NISA口座が非稼働になる確率が高いことを明らかにした。 以上の分析結果より、NISAは高い金融リテラシーを備えていない層にも投資を促した点で投資家の裾野拡大に貢献したと言える。但し、NISA口座の過半数近くが非稼働の状況であり、制度が十分活用されているとは言えない。今後、金融機関や政府によるNISAの広報・勧誘については、口座開設のみを目的とせず、人生設計の中で貯蓄目標を明確にし、その過程でNISAが持つ役割を意識でいるような方法が問われている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は大きく2つあり、①NISAの証券市場への参入効果、及び②NISAによる証券市場参入後の行動分析、を挙げていたが、まず、①の分析については論文としてまとめ、証券経済学会のワーキングペーパーとして公開することができた。さらに、②の分析結果については、日本証券経済研究所の査読誌「証券経済研究」に掲載が決定している(2022年6月刊行予定)。また、①と②の分析結果をまとめ、2021年12月に生活経済学会中部部会で報告することができた。このように、本研究の目的について調査を実施し、分析結果を学会で報告したり、論文として公表したりすることができたため、「(2)おおむね順調に進展している。」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度までの研究は全ての年齢層を対象とした分析であったが、2022年度は金融ジェロントロジー(金融老年学)の観点から、高齢者に焦点を当て、高齢層のNISAを用いた証券投資の行動について分析する予定である。この分析の意義は以下の通りである。 現在、加齢による認知機能の低下を念頭に、金融庁の監督指針と日本証券業協会の自主規制の下、金融商品の取引については年齢を基準として規制やルールが設けられている(例えば、80歳以上の金融商品の取引については当日の契約が不可となっている)。 このように、心身機能の低下を考慮して高齢者の金融商品の取引が議論・検討されているが、NISA口座残高については、過半数以上が65歳以上の高齢者により保有されており、NISA市場において高齢者は重要なプレイヤーとして位置付けられている。従って、高齢者がNISA制度を十分理解して利用しているのか、また適切にNISA口座を運用できているのかなど、高齢者のNISA口座の利用状況について計量的に検証する必要がある。2022年度は、NISAを利用している高齢者を対象に、NISA口座の利用状況等を調査し、心身機能や金融リテラシー等の影響などについて分析する予定である。
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Causes of Carryover |
2021年度の費用執行は最終年度ではないため、使用限度額の範囲内で(使用限度額を超えないように)調査の実施ができるように調査委託会社に依頼した。その結果、ほぼ使用限度額で収まり、次年度使用額が630円のみ生じた。次年度繰越額(630円)は、2022年度に実施予定である調査費用に組み込む予定である。
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