2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K01777
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
木越 義則 名古屋大学, 経済学研究科, 教授 (00708919)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平井 健介 甲南大学, 経済学部, 教授 (60439221)
竹内 祐介 東京都立大学, 経営学研究科, 准教授 (30711238)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 水資源 / 生活用水 / 工業用水 / 農業用水 / 海運 / 満洲 / 台湾 / 朝鮮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は、戦前期日本の植民地統治と開発の問題について、水資源というエコロジーの観点から検討することである。具体的には、朝鮮、台湾、そして満洲を分析対象とする。この研究を進めるために、今年度中も日本による水道事業についての基礎的な資料とデータの整理を進めた。 満洲における水資源の開発については、工業用水について知見を深めることができている。従来の満洲水道事業史では主に生活用水に研究の重点が置かれていたが、本課題ではそれを工業用水にまで分析の対象に入れることで、水資源と工業化の関係に分析の視座を広げた。撫順、鞍山に代表される日本が開発した工業都市では、早期的に工業用水の開発が展開されていた点が明らかになった。この研究成果の一部は、研究協力者である馬軼民氏が論文にまとめ、公表した。 台湾、朝鮮における水資源の開発については、研究代表者を中心に水道統計の整理を進めた。その中で台湾の水道統計の場合、その数値そのものに検証の余地が大きいことが明らかになった。特に1920年代以前については、統計遺漏がある水道の存在、そして測量計の不備により配水量が未確定である事例もある。したがって水道の供給量について抜本的な推計が必要であることが明らかになり、それを実施している途中である。また台湾の生活用水の利用形態の一つである入浴については、分担研究者である平井健介氏が論考にまとめた。さらに、水と交通の関係の問題については、北東アジア地域の代表的港湾である大連、上海のデータを活用した船舶輸送の分析を研究代表者が行った。その他に、この科研で培われた知見と関連があるものとして、学会発表が1回、そして論考が1本ある。 また年度内中に2回のワークショップを実施した。第1回は満洲の農業用水について、第2回は戦前日本植民地の土木開発と技術者について、それぞれ研究報告と意見交換を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの影響によって移動・集会が制限されていたことにより、①情報の収集と②その共有の面で進捗の遅れがある。第1に、情報の収集面の遅れは大きい。研究の当初計画では、今年度中に、台湾と韓国に赴く予定であった。それぞれの公文書館、公立図書館、大学そして研究機関での文献調査を行い、かつ水道事業の博物館、史跡の調査実施を企図していた。しかし、これは全く実現できていない。 第2に、研究分担者、研究協力者の間での情報交流については、対面型での研究会の実施が困難であった。研究計画では、名古屋大学で年2回の研究会を予定していたが、それはすべてZOOMを利用したオンラインで実施した。第1回は満洲の水資源について、農業用水の開発問題について情報を共有した。第2回は、できれば台湾・朝鮮についての研究進捗の共有が望ましかったが、第1の情報収集面での問題があったため、本課題と関連が深い海外における研究のリサーチとその討論をZOOMで実施した。この検討会を通じて、土木技術の戦前と戦後の連続性について視野を広げることができた点は大きな成果であった。 研究の柱となるデータベースの構築については、満洲(関東州と満鉄附属地)ではかなりの進捗が見られる。次に、台湾では水道事業のデータベースのうち、配水量の基礎データの整理は完了した。今後は、統計に含まれる遺漏数値の検証を進める予定である。朝鮮についてはデータの整理に着手したばかりであるが、事業の全体と概要については、分担研究者の協力を得て、基本的な見通しを得ることができている。 以上の状況をまとめると、定量的なデータの収集では一定の進捗が見られるが、そのデータの意義を評価するために必要な質的な文献資料の収集、そして歴史研究では必須となるフィールド調査を通じた現実感を伴った認識に基づいて、過去の水道事業を評価する知見の面での進捗が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度中も新型コロナウイルスの影響が続く可能性を考慮する。全く海外渡航が不可能な状態の場合を想定して、データベースの完成に作業を集中させる。現況は満洲の整理が進行しているので、引き続き台湾と朝鮮のデータベースを遅くとも8月までに完了させることを目指す。さらに統計データの遺漏などの検証を行うことで、満洲・台湾・朝鮮の3地域における近代的水道事業の展開について、定量的な検証を行うことを目指す。この作業を9月までに完了させることを目標とする。 次いで整理したデータに基づいて、3地域を総合的に比較することによって、日本による植民地開発の成果を、水資源というエコロジーの問題からどのように評価できるのか、という問題について、研究分担者、研究協力者とともに情報共有と議論を進める。10月までに、オンラインでの研究会を開催し、それぞれの担当地域の成果から得られた知見を発表する。 次のステップとして、ここまでの作業を通じた成果を研究論文として執筆し公表することを目指す。研究代表者、そして研究分担者2名の合計3名の連名論文とし、日本帝国の水道事業の全体とその成果を数量的なデータに基づいて検証する。その発表媒体としては、名古屋大学内のディスカッションペーパーを活用しつつ、将来的には正式な論文として公表できるよう努力する。 以上が2021年度中に新型コロナウイルスの制約がある中で目指す研究計画である。もし、海外調査が可能な状況に恵まれた場合は、現地調査の実施も視野に入れるが、その場合でもデータベースの完成は最低限の目標として堅持するものとする。また予期せぬ事態によって、データベースの完成が滞る場合は、事業の期間延長も見据えて、無理のない形で研究計画を完了できるよう考慮する。
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Causes of Carryover |
新型コロナの流行の関係により、予定していた海外および国内での資料調査が実行に困難になった。また研究代表者が所属する名古屋大学でのワークショップ2回をオンラインで実施したことにより旅費の支出がなかった。以上の2点により次年度使用額が発生した。
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Remarks |
第1回科研研究会(2020年8月21日)報告者:馬軼民「満洲の水開発:関東州愛川村の水田農業の分析を中心に」 第2回科研研究会(2020年10月24日)アーロン・S・モーア著(2019)『「大東亜」を建設する:帝国日本の技術とイデオロギー』人文書院をめぐって 報告者:木越義則、小堀聡
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