2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K02037
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
佐藤 雅浩 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (50708328)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
牧野 智和 大妻女子大学, 人間関係学部, 准教授 (00508244)
櫛原 克哉 東京通信大学, 情報マネジメント学部, 助教 (00814964)
山田 理絵 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (70837335)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 医療化 / 心理学化 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の2年目にあたる本年度は、研究プロジェクト全体にかかわる研究活動と、各研究メンバーの役割分担に沿った調査研究を並行して行った。前者に関しては、まず2020年の6月下旬と8月下旬の2回にわたって本研究に関連する研究会を開催し、研究メンバーの調査研究に関する報告を行うと同時に、外部から複数の研究者を招き、社会の医療化・心理学化に関する先端的な知識提供を受けた。またこれらの研究会によって得られた知見をもとに、11月には日本在住の男女1000名を対象とした「健康と生活に関する意識調査」を実施した。この調査は、医療機関への接触頻度、医学・医療への信頼感、メンタルヘルス問題に対する意識、健康情報の取得経路などを中心に、医療化の進展する現代社会における人々の健康意識や行動について統計的な観点から調査したものであり、その分析結果は次年度以降に公開する予定である。次に後者の各メンバーの調査研究としては、佐藤は上記の意識調査を主導して行うと同時に、これまでの精神医学領域に関する社会の医療化についての調査研究を論文として発表した。また櫛原は精神科診療所の患者を対象としたインタビュー調査から得た知見をまとめるとともに、精神科診療所のスタッフを対象とした調査を追加で実施した。そして牧野は心理学的技法の一応用といえるワークショップの展開について、まちづくりにおける活用形態を中心に研究を行い学会での報告を行った。また山田は、摂食障害の当事者や家族、専門医、自助グループ運営者を対象にインタビュー調査を行い、摂食障害になる経緯や診断・治療経験について調査分析を行った。最後に研究協力者である酒井は戦後日本社会の展開と精神医学知の在りさまの関連を探究するため、著名な精神病理学者・精神科医の著作を収集し分析した。以上の諸活動により、現代社会の医療化・心理学化を比較分析するための基礎データが収集された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請段階の計画において、本年度は研究の核となる「医療化」もしくは「心理学化」に関する社会学的な調査研究を行うことが予定されていた。またこの過程においては、本研究に参加している研究者ごとの役割分担に従って、各自のフィールドにおいてデータの収集と分析を行い、定期的に調査によって得られた知見を報告するミーティングや研究会を開催し、各事例の相違点や類似点についての情報共有・意見交換を行うことが予定されていた。これに対し本年度は、上記「研究実績の概要」で述べたように、研究代表者・研究分担者・研究協力者それぞれが、役割分担にそって各領域の調査を実施し、論文や学会報告の形でその成果を公表することができた。また複数回の研究会を開催することを通じて、各人の研究状況の報告と討議を行い、社会の医療化・心理学化に関する実証的な比較研究を遂行するための足掛かりを得た。また外部から関連分野の研究者を研究会に招くことで、社会の医療化・心理学化に関する理論的・実証的な知見を蓄積することができた。さらに既述した「健康と生活に関する意識調査」においては、現代社会において医療化・心理学化の影響を受けていると考えられる個人に焦点をあて、医療化・心理学化とかかわる行動の規定要因や意識構造を解明するための基礎的なデータを得ることができた。以上のことから、本研究の申請段階において予定されていた研究内容はおおむね実施することができたと考えられる。その一方で、本年度は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の蔓延に伴い、当初予定していた対面での調査や遠隔地での学会報告など、実施が困難になった活動も存在した。これらの点については、次年度以降に感染状況を踏まえつつ、実施方法の変更等を含めて再検討を要する。
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Strategy for Future Research Activity |
当課題の申請時に申告したとおり、次年度は研究メンバーが実践している複数の事例研究から得られたデータを比較しつつ分析し、現代社会において進展する「医療化」と「心理学化」に関する新たな知見を導出する。具体的には、研究代表者が「うつ」や発達障害等についての精神医学的知識の大衆化とその帰結に関する実証的研究を遂行するとともに、当該事例の特徴について他事例との比較から考察を行う。また児童の発達相談に関する調査、ならびに精神科薬物療法や外来精神医療を通じた自己形成をテーマに研究を行ってきた櫛原は、公立の小学校や中学校における発達障害の診断の普及の影響を調査するとともに、2021年の診療報酬の改定が精神医療の脱施設化に及ぼす影響について考察する。さらに摂食障害の当事者に対して、精神医学や心理学的知識のもたらす影響について調査を行ってきた山田は、これまでに調査によって得られた当事者の語りの考察を進めるとともに、論文や学会発表において研究成果の公開を行う。また心理学的な知識が各種メディアを通じて広く社会の人々に受容されていく過程について研究してきた牧野は、前年度から継続してワークショップ・ファシリテーションの専門家とともに同テーマに関する論集の編集に従事し、成果物の刊行を目指す。また研究協力者の酒井は大学における心理学の学科の増設と「臨床心理士」資格制度化のプロセスについての調査研究を行う。これら各メンバーの実践する研究によって得られた知見を研究会等の場において検討し、各事例における「医療化」と「心理学化」の構造的な異同や推進要因の相違について考察する。また昨年度に実施した「健康と生活に関する意識調査」のデータ分析を進め、現代社会の「医療化」と「心理学化」の現状を、実証的な見地から明らかにする。
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Causes of Carryover |
当該年度(2020年度)は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の蔓延に伴い、当初予定していた対面での調査や研究会などの中で、実施が困難になったものが存在した。そのため、当初予算に計上していた調査関係費用や旅費・謝金等のなかで、支出が困難となった項目が発生した。次年度使用額が生じた理由は上記の通りである。当該の未使用額については、翌年度(2021年度)に感染状況の推移を見ながら、今年度に実施できなかった研究内容を遂行するために使用する予定である。ただし、COVID-19の感染状況によっては、研究期間を延長して当初予定されていた研究内容を遂行する可能性がある。
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