2021 Fiscal Year Research-status Report
「人口減少社会」という問題の社会的構築分析 ーその地域的展開の分析―
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19K02046
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
飯島 伸彦 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 教授 (20259310)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人口減少社会 / アジェンダ設定 / 社会的構築 / 新しい生活困難層 / 言説分析 / 間テクスト分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の研究は全体的には引き続き「新型コロナ状況」が継続しており、地域への聞き取りなど困難な中、「人口減少社会」という問題をめぐる社会科学的な研究の蓄積を踏まえながら現代日本社会におけるその問題としての構築プロセスを言説分析などを中心に進めることに傾注した。 第1に社会理論的な分析枠組みの再検討作業を行った。人口減少社会という問題は少子化問題と高齢化問題を接合したかたちで言説的には生み出されてアジェンダされてきているが、そもそもある社会の人口の構成に関しては様々な社会的要因が複合的に関連して作用した結果として生じている。特に現在の日本社会においては従来とは異なり「新しい生活上の困難な諸問題」「新しいリスク」が生じてきていると考えられる。人口減少と新しい生活上の困難な諸問題との関連についての検討をする必要がある。 第2に、2020年度に引き続き、人口減少社会という社会課題のメディアや政策へのアジェンダのされかた、およびそれに対応した対策・政策の打ち出されかたなどの問題性について検討を進めた。アジェンダのされ方が政治的であり、社会や地域の実態や文脈、地域類型の違いなどを十分踏まえたうえでの言説上の展開、政策上の展開がなされていないためにいわば「スローガン的」に、地域創生策の一環として打ち出されていることの問題性を明らかにしつつある。 第3にそもそも学問的な枠組みとして、社会科学のなかでの人口学的な枠組み、人口学的なデータに基づくアジェンダであるために、そこからのシュミレーションなどがどうしても抽象的なものとなり、そのような予測数値が独り歩きし、政策当局者の判断に影響を与えてしまい真に有効な対策を生み出すのを妨げている、という点である。2010年代後半から2020年代にかけての、以上のような問題点について、言説分析を中心に進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度の研究は引き続き新型コロナ状況が深刻化しており、当初計画での地域や自治体関係者へのヒアリング等が進まず、出張なども制限されたままで全体としては順調に進められたとはいえない。他方、新型コロナ状況下での人口減少問題の深刻化、などの新たなテーマが浮かんでいる。 第1に人口減少という課題は社会の長期的推移のなかで「問題化」が進む問題であり、それぞれの地域でその時に課題になっている短・中期的な課題とのつながりが見えにくい問題である。そのため、トップダウン型の「申し立て」(いわばクレーム申し立ての主体なきアジェンダ)となりがちな性質を有している。「地方創生会議」などによるアジェンダもそのような特質を持っており、それに続く政府・自治体の実施過程においても、現代日本の中央―地方関係がもっている特有の問題性を帯びた実施プロセスを辿っている。 第2に人口減少問題の課題の設定の仕方そのものの問題性も明らかになりつつある。人口減少問題は、そもそも社会の様々な複合的な諸課題と連関している問題であり、特に社会のジェンダー的な編成のあり方、ワークーライフバランス的な編成のあり方と深くかかわる問題である。2000年代、2010年代以降の日本社会においては、従来とは異なる「新しい生活困難層」(宮本太郎)とでもいうべき層が複合的な生活上の新しいリスクを抱えるようになってきており、それらの問題と密接に関連しているといっていい。人口減少問題とこれらの問題との関連についての分析をすすめつつある。 第3にこの間の政府の人口減少に関わる政策展開と自治体の施策について、それに密接にかかわる政策領域(育児・貧困・介護など)も含めて関連づけながら分析する作業をすすめつつある。その分析対象となる対象を、中部地域の具体的な自治体を定めたうえで、現地調査、自治体ヒアリング、メディア言説分析などをすすめつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年は、新型コロナ状況が継続するなか、地域の実地調査が困難だったために予定通りに研究が進まなかった。従って、2021年度に実施できなかったことを2022年度は進める。人口減少社会の問題の言説分析を進めるために、人口減少に関わる学術的な研究について、その関連する周辺領域も含めての分析枠組の整備を進める。人口減少社会に関する言説を中心に、育児、生活困窮、働き方、ジェンダー、介護などの言説との関連についての分析を進める。また、それらに基づきつつ、各種の政府文書、経済団体文書、自治体文書、マスメディア言説の間テクスト分析を進めそれらを前提にしつつ、より地域を限定して中部地域の自治体政策・施策分析、地域分析・地域メディア分析を行う。2022年度前半はより地域を絞った形(愛知県、岐阜県、三重県、長野県、福井県などのなかから)での人口減少問題の実態を明らかにしつつ、その隣接・周辺領域についての施策・政策の言説の間テクスト分析を中心に進める予定である。さらには上記の諸県から基礎自治体を選んだうえで基礎自治体を定めて同様の分析を進める予定である。また、2022年度後半には具体的な自治体・地域についての以上の言説分析にもとづきつつ当該自治体の政策・施策関係者へのヒアリング、地域関係者へのヒアリング調査・実地調査を行っていく予定である。新型コロナ状況のなかでの当該地域の人口構成の推移、動態、さらには政策・施策も調査し、さらには政策文書、メディア言説の分析も行っていく。そのうえで、自治体・地域の対応の類型をパターン化、人口減少問題についての地域の対応について分析・考察し、アウトプットをしていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナ状況の拡大・継続のなか、2021年度は実地調査、出張などができず、また、学内業務などにより研究の進行が遅れたため、次年度にむけて使用額を残すことになった。特に、2021年度に予定していた地域・地方自治体への出張、学会への出張などが大学からの出張禁止などで困難であったため。
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