2023 Fiscal Year Annual Research Report
中国の親子・親族関係の変質に与えた一人っ子世代の影響に関する実態研究
Project/Area Number |
19K02052
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
施 利平 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 専任教授 (20369440)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 一人っ子政策 / 一人娘 / 世代間関係 / 父系親族規範 / 結婚 / 出産 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、一人っ子世代の女性対象者を通して、女性の生家と婚家との関係を比較研究することにより、一人っ子世代の誕生が、中国伝統的な老親扶養モデルである「養児防老」(息子による老親扶養モデル)、および息子との同居、息子による継承・相続と祖先祭祀を原則とする父系的な親族規範に変質をもたらすのかを検証することである。 浙江省紹興市の一人娘40名に対して、インタビュー調査を実施した。分析した結果、以下のことがわかった。父系親族規範とされる1)嫁入り婚、2)夫方同居、3)父系継承(子孫が父系親族に帰属すること)が基本的に維持されていることが検証された。他方、息子のいない一人娘を持つ親は、娘の婚家に対しては、婚前協定を結び、また婚後に娘夫婦に第二子の出産を要請するようになり、妻方の後継者獲得のニーズと実践が行われていることも析出された。 40名の一人娘の語りから浮き彫りとなった両家の関係性は、今日においても相変わらず夫方が妻方に対して持つ優勢性である。これは従来一人っ子世代の誕生や一人娘家庭の大量出現により、父系親族規範の崩壊や弱体化を主張する研究とは異なった知見である。また、一人娘は両家の後継者出産要請に対して、婚前も婚後も親世代から多くの経済的支援と子育てサポートを受けている以上、応えざるを得ない。他方子どもに寄り添い、教育する母役割が期待されているため、子育てと仕事や、自身のライフスタイルとの両立が困難である。ゆえに女性対象者は婚家のために後継者を出産する役割を自身の役割として受け入れるのに対して、生家の要請には距離を置こうとしている姿勢である。 一人娘の結婚と出産に焦点を当てることで、一人娘の生家と婚家の間で、そして親世代と子世代の間で行われている交渉のあり方を提示し、これらの交渉の根底にある人々の生き方、父系親族規範、ジェンダー構造を解明することに貢献できたと評価する。
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