2019 Fiscal Year Research-status Report
知的障害者とその家族の高齢期-「地域生活」の多義性と入所施設をめぐる研究
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19K02207
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Research Institution | Hokusei Gakuen University Junior College |
Principal Investigator |
藤原 里佐 北星学園大学短期大学部, 短期大学部, 教授 (80341684)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 勉 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (20162969)
田中 智子 佛教大学, 社会福祉学部, 准教授 (60413415)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 知的障害者 / 家族 / 入所施設 / 地域生活 / 自立 / 離家 / 移行 / 親亡き後 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年次の本年は、知的障害者入所施設の歴史的経過と現代的役割の検討を通して、「地域生活」の言説がどのように議論されてきたかをメンバー間で共有した。関係施設の資料、及び、視察での知見から、大規模入所施設やコロニーから出発した施設の機能の変化、入所者の動向、地域との関係性などを分析することができた。 入所施設の存在意義としては、地域に療育や教育、通所先等の社会資源がない場合、また、家族によるケアが困難な場合の、障害者の生活基盤となることが通底している。これまでの施設入所者は、比較的早期(子ども期、青年期)に施設に入り、現在、高齢化しているという特徴があった。さらに、強度行動障害の方が短期入所も含め利用している傾向と、地域で生活していた重度の障害者が、家族の高齢化に伴い、入所を選択する傾向が見られた。 入所施設の評価としては、空間的な利点、ケアの「専門性」、継続性(日中活動との行き来)が挙げられる。一方、入所を選択しない背景には、居室環境と個別性配慮の不足、生活スタイルの画一化と集団化、「地域」生活からの排除という要因が明らかになった。 本研究では、入所施設批判への批判的検討も試みた。近年、「施設解体」に対する知的障害者家族の理解の有無、親による施設建設運動の行方が注目されている。知的障害者の地域生活と施設入所が対立概念とされるが、重度障害者の地域生活の定義は確立されているとは言えない。障害者自身の自立規範、親亡き後の不安解消という視角から、施設という選択が機能していることを本研究では追究したいと考えてきた。 また、施設入所は、ケア役割とそのが責任が家族から施設に移行するという側面ばかりではないこと、親役割が継続することで、障害者の地域への帰属が保たれていることにも目を向け、「入所施設VS地域生活」の枠組みを超えた、成人障害者の社会生活を論じる必要があることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
代表者と分担者が相互に研究発表をする形で、入所施設の歴史と動向を把握し、意見交換を行うことができた。施設の歴史がコロニーから始まる大規模施設の視察を行い、20年間にわたり、計画的、積極的に「脱施設化」を進めた事例を学ぶことができた。ただし、北欧のように、完全なる施設解体ではない点が特徴的であり、家族が高齢化する現代において、入所施設のニーズが高まる可能性があることを、地域生活との対比の中で検討した。 近年、入所施設の存在、あり方を批判的に検討する研究が散見され、施設役割の終焉が論じられているが、障害状況、地域の社会資源などから、施設入所を選択する障害者と家族がいることも事実である。地域生活の多様性を、入所施設で発揮している事例などからも、暮らしのバリエーションの豊かさという観点で、入所施設を再評価していく必要があると考えた。 年度末には、大規模入所施設の視察、研究会を予定していたが、新型コロナウィルス感染の影響で中止となり、本年度の研究予定を完了することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
知的障害者入所施設の現代的機能を明らかにするために、他の福祉施設・機関-グループホーム、療護施設、高齢者施設-と入所施設を比較する。特に、医療的行為と生活形態、疾病と看取りのケア、地域生活の位置づけを、視察を取り入れながら、検討していく。脱施設化の動きは、集団生活の規模、生活の画一化、個別的ケアの不足などへの批判が根拠となっているが、障害者の暮らしを支える条件と環境が改善することで、入所施設の生活は選択されていくのか。知的障害者のグループホームがミニ施設化しているとの指摘もある中で、その差異も示していきたい。 現在、新型コロナウィルス感染拡大の緊急事態宣言下にある中で、研究打ち合わせが中断している。今後、入所施設等への聞き取り調査、視察が再開できるか否かが課題である。
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Causes of Carryover |
2020度2月に予定していた研究会をコロナウィルス感染拡大により、中止したことにより、予算が未執行となった。次年度は遠隔での研究打ち合わせも取り入れ、入所施設における地域生活の多様性を議論し、論文としてまとめる。文献・資料の用意と通信費に、繰越金を使用する予定である。
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