2021 Fiscal Year Research-status Report
知的障害者とその家族の高齢期-「地域生活」の多義性と入所施設をめぐる研究
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19K02207
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Research Institution | Hokusei Gakuen University Junior College |
Principal Investigator |
藤原 里佐 北星学園大学短期大学部, 短期大学部, 教授 (80341684)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 勉 佛教大学, 社会福祉学部, 名誉教授 (20162969)
田中 智子 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (60413415)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 入所施設 / 在宅 / 離家 / 自立 / 障害者家族 / 地域生活 / 親の高齢化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021度の研究計画として、入所施設の機能と評価、グループホームの役割と「地域性」について、英国と日本の実践を比較調査する予定であったが、コロナ感染拡大の中で、中止せざるを得ない状況になった。当該年においては、これまでの調査データーをもとに、在宅から入所施設への移行、在宅からグループホームへの移行に際しての障害者家族の意向、不安、支援のニーズに関する分析を行った。社会福祉法人ゆたか福祉会の協力を得て、子どもが離家をした後に、帰省、面会、行事などを通して、家族がどのように障害を持つ子どもの支援に関与しているか、事例をもとに検討した。 障害当事者と親の健康状態、経済状態、家族関係、社会資源の利用状況等々は、数年単位で変化する可能性があり、とりわけ、親の高齢化は、入院や要介護など、ケアする親であることが困難になることも明らかになった。加えて、コロナ感染拡大予防の観点から、子どもの帰省、親との面会が制限されることが続く中で、「離家後の暮らし」の在り方も、当初に想定していたものと大きく異なることを家族は経験していた。暮らしの拠点を入所施設に移して以降も、定期的な帰省や地元での行事に参加をすることで、引き続き、元の居住地での「地域生活」を送っていた障害者は、それが途絶え、施設での生活を余儀なくされていた。施設が所在する地域での生活に「参加する」という積極的な変化を見出すには至らないが、入所する施設を自身の拠点として、そこでの生活に安心感や満足感が得られるようなケアを施設が再構築していることも分かった。他方、こうした経過を家族がどう評価しているのかについては、未着手であり、課題となる。 高齢期を迎えた障害者家族の要望、入所施設の生活環境や社会環境の現況、障害当事者の意向、これらを重ねて議論することの必要性を問題提起することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍において、日本国内及び、海外の入所施設、ケアホーム視察を実施できなかった。グループホームとの形態上、実践上の違いを明確にすることで、知的障害者が求める、地域生活とは何かを具体的に検討することを展望していたが、その点は着手できなかった。 他方、コロナ感染拡大は、障害者とその家族との関係性に、種々の制限を与えたことも事実であり、結果的に、離家後の暮らしは、離家前に想定していたものとは異なる局面も見えてきた。具体的には面会や帰省ができない状況下で、障害を持つ子どもはストレスを抱え、親は不安を高めている。この仮説を検証する上でも、施設の視察や家族へのインタビューは不可欠となるが、社会情勢上、高齢の障害者家族への聞き取りは見合わせた。
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Strategy for Future Research Activity |
知的障害をもつ当事者が、その暮らしの形態にかかわらず、地域に属し、地域で生活するという営みを可視化し、社会化する方法を探る。施設、グループホーム、在宅によって、「地域で暮らす」実態がそれぞれ異なるという視角から、これまでの先行研究は論じられてきた。本研究はそれを再考することを目的とし、障害者にとっての地域生活のありようは、多様であり、施設やグループホームという形態に、必ずしも規定されないのではないかという仮説を検討してきた。 研究最終年に当たり、第一に、入所施設に属することは「地域生活」の疎外となるのか否かを分析する。入所施設の規模、支援の理念、地域の特性を比較検討しつつ、「地域」生活に対する入所者と家族の意向を聞き取りし、地域で暮らすことの多義的性を追究する。第二に、親の高齢化に際し、障害を持つ子どもの離家後のケア、関わり、面会、帰省などが誰にどのように引き継がれるかを通し、在宅時の地域とのつながりの維持、変化を考察する。第三に、第二の事象を受けて、入所施設での地域との関係性は発展する余地があるのか、入所施設と地域という枠組みから、入所者個人と地域のかかわりという点でみていく。 コロナ感染拡大により、居住都道府県を超えての移動の制限、基礎疾患を有する人への感染予防がなされる中で、これまで継続してきた、入所者の定期的な帰省や家族との面会ができないことの影響が、障害当事者と家族にどのような形で表れているかも調査することとする。これは、当初の研究計画にはなかった観点であるが、コロナ禍にあって、自身の地元、実家に帰宅できない障害者が、入所施設の中でそれをどう受け止め、また、今いる「地域」との関係性を紡ぎだしてきたのかを整理することで、知的障害者が「入所施設」のある地域で、当たり前に暮らすことの可能性を示す。
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Causes of Carryover |
本年度は施設の視察、障害者家族のインタビュー、対面での研究会がコロナ感染拡大の中で、いずれも実施できなかった。高齢の障害者家族を対象とする調査において、対面でのリスクを回避し、かつ、オンラインでのインタビューは、当該調査においては適切ではないと判断したからである。また、海外での調査の費用を積算していたため、それを延期したことで、当初予算を下回る結果となった。研究最終年度には、遅延していた視察及び調査を実施し、合わせて研究成果の発表のために予算を執行する予定である。
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