2019 Fiscal Year Research-status Report
医療的ケアを必要とする重度肢体不自由者の地域居住生活継続に資する居場所作りの研究
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19K02340
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山田 義文 日本大学, 工学部, 講師 (80584375)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 重度肢体不自由者 / 医療的ケア / グループホーム / ケアホーム / 居住環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究活動において、本研究代表者は、重度肢体不自由者の地域における居場所作りを進めていく中で直面している様々な課題を抽出してきた。特に、地域居住の継続に大きな課題を抱えているのが、医療的ケアが欠かせない重度の肢体不自由者である。 障がい者向けの住まいをめぐっては、グループホームやケアホームなど、普段の生活に近い環境の中で自立した生活を送ることができる、小規模な住まいへの移行が進展している。しかし、こうした移行は障がい者の中でも、知的障がい者や精神障がい者が主となっている。特に医療的ケアが必要な重度の身体障がいや知的障がいなどを複合した人々においては、家族によるケアを受けながら家族と自宅で暮らしているケースが、既往研究によると8割以上を占めている。全般的な住環境の満足度も、医療的ケアを実施していない人よりも実施者の方が低く、住まいの広さや、バリアフリー環境、移動の面などで課題が残っている。地域で必要な医療的ケアを受けることが難しいため、重度肢体不自由者の多くは、1人暮らしへの関心があっても、容易には踏み切れない状況にある。さらに、重度の肢体不自由者が継続して安定した支援を地域で受けられない場合は、高齢化した家族による支援を受けながら在宅生活を続けざるをえない。支援する親の高齢化も進みつつあり、課題解決に向けて切迫した事態になっている社会的背景が浮かび上がってきた。 本研究を推進する上で、2019年度は住まい開設に向けた地域環境やコストとの関係に関する調査、事例調査に向けた準備を行った。その成果を日本建築学会住宅系研究報告会論文集に審査付論文として投稿し、2019年12月5日に日本建築学会住宅系研究報告会で口頭発表を行い、建築計画、建築社会システム、農村計画、都市計画に関する有識者らと分野横断的な視点から意見を交わし、今後の研究の方向性を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、住まい開設に向けた地域環境やコストとの関係に関する調査、事例調査向けた準備を行い、論文としてまとめた。全国調査で得られた新しい知見を基に、以下の提言を行った。 ①近年の重度肢体不自由の住まいは、商業施設に近接し、利便性の高い住宅地において設立が進んでいる。定員の平均値は、グループホームの定員の下限値程度で、居室と共用空間及び支援者用室の位置関係からプライバシーも重視されている。一方、支援者からは個別のニーズに応じたケアを行うための入居者選定の難しさに関する点も、一課題として挙げられている。②住まいの開設について、NPO法人、有限・株式会社、その他団体が運営する事例の全てが、資金や土地・用地の確保を課題として挙げている。③夜間を中心に、支援者の人材不足が運用後の深刻な問題となっている。支援者の通勤事情にも考慮した、利便性の高い立地条件を検討する必要がある。④水回り空間では、介助者や福祉機器のスペースが不足し、一部の入居者は利用できない状況が生じている。食堂や居室も含め、介助時の人員及び動作過程、使用機器も想定した包括的なバリアフリー化が求められる。⑤入所施設を利用する障がい者の数は、障害者自立支援法前から着実に減少した一方、グループホーム利用者は着実に増加している。円滑に新たな住環境に移行するためには、体験室の利用が必要である。しかし、用地が限られ、体験室が整備されている住まいは限られている。空室を利用した短期入居や体験宿泊、緊急一時的な利用を可能とするために、住まいと関係機関との連絡・調整を図ることも今後の課題である。 以上の調査結果を基に行った提言内容を踏まえ、当初2019年度に予定していた研究内容は概ね達成され、2020年度から肢体不自由者の住まいにおける先進的な事例調査に着手できる状況にあり、現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者らによる既往研究及び2019年度に得られた新しい知見を基に、2020年度から2021年度前半にかけて肢体不自由者の住まいにおける先進的な事例調査を実施する。調査は、2019年度までにまとめた研究により得られた調査結果の中から、全国から20か所程度の創意工夫をした、あるいは先進的な居場所を選定してソフト面とハード面の項目について実施する。本調査は、運用面と建築環境面、そして介助支援を受ける肢体不自由者にとっての「快適性」という視点から、地域での工夫を見出すことを目的とする。 調査項目について、運用面に関しては、居場所の代表者に肢体不自由者を地域でサポートする上で、入居者の個性、地域性、提供サービスに適応した工夫点等をヒアリングする。建築環境面では、周辺地域との立地関係の他、特に居室における介助者や福祉用具の導入に向けた配慮状況、バリアフリー環境整備における状況を構造、アクセス上の工夫、使われ方の特徴などを中心に調査する。以上の調査を通じ、入居者に快適性をもたらす居場所の計画に向けた的確なプロセスを解明する。 このうち、ハード面(建築環境面)に関する主な調査項目は、(ⅰ)建物に関するフェースデータ(新築に限らず、改築・転用の事例も対象とする)の作成、(ⅱ)入居者の日常生活行為に関わる諸室の整備状況や利用状況、快適性を構築するための工夫、居場所の防災対策、(ⅲ)入居者や介助者からの今後の要望の3項目である。ソフト面に関する主な調査項目は、(ⅰ)運営情報・理念、(ⅱ)人的支援の体制、(ⅲ)地域の中での安全と快適性・防災への意識の3項目である。新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、2020年度前半から計画していた現地訪問実態調査は当面控え、アンケート調査や電話によるヒアリング調査などを主体に研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、2019年度末に出席を予定していた学会の研究会やシンポジウムが中止となった影響で、旅費として使用予定の額が使用できなかった。この分は、2020年度以降の学会参加費や調査旅費として使用する計画である。
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Research Products
(4 results)