2021 Fiscal Year Research-status Report
Consideration on the gender stories which are reporoduced in the youth cultures: A comparative study between Czech and Japanese cases
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19K02532
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Research Institution | Ishikawa Prefectural University |
Principal Investigator |
石倉 瑞恵 石川県立大学, 生物資源環境学部, 准教授 (30512983)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ジェンダー / 再生産 / 大学生 / メディア / 文化受容 / 内在化 |
Outline of Annual Research Achievements |
テレビ、ポスター、雑誌、小説等のメディア、スポーツイベント等文化活動の分析を通して、チェコの社会主義期から現在にかけて継承される女性のジェンダー・モデルを明らかにした。 社会主義初期の女性のジェンダー・モデルには相克する二つの方向性があった。一方は、女性の雇用を喚起するポスターに描写されていたような新興ブルーカラーである。ベレー帽をかぶり、つなぎの上にジャケットを羽織ろうとトラクターの前でポーズをとる女性像、洗練されたトラクター運転手のような労働者である。もう一方は、家事の効率化をアピールする家電の広告で登用されていたような、家事を手掛けるフェミニンな装いの女性である。社会主義後期になると、労働力の主力とされるブルーカラーのイメージは消失した。その事実を象徴的に示しているのがスポーツの祭典「スパルタキアーダ」である。マス運動を通して、労働力、力強さの象徴としての男性、優美さと賞賛の対象としての女性が対照的に表現された。男性の職業領域を犯すことがない労働者、前社会主義的な女性像、男性にとっての好ましい他者が女性のジェンダー・モデルとして定着し、それを女性が積極的に受容したこと、社会的容認の要因が社会主義そのものにあることが明らかになった。 ポスト社会主義期のチェコにおいては、社会主義後期の女性イメージが定着する傾向にある。その要因の一つは、反動と自由、すなわち女性が家事・育児に専念する自由を獲得したことにある。また、社会主義崩壊後10数年あまり、「優美さと賞賛の対象としての女性」は、テレビ等において「鑑賞」する対象として自由に表現された。その結果、チェコ社会のモラルは、異性に対するポジティブな関係、尊敬、教養ある行動等、二項対立的な男女間の秩序を強調する傾向が強くなった。この点も、好ましい他者としての女性のジェンダー・モデルを定着させた要因の一つと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「やや遅れている」と判断するのは、COVID19により海外渡航が困難となり、予定していたチェコ調査を実施することができなかったからである。インターネットを通したメディア資料等の収集は可能であったが、若者文化の観察、若者文化を知るためのメディア資料等のより広範囲にわたる収集ができなかった。 しかし、1950年代から2000年代にかけてのメディア資料等の収集に関しては、女性の文化やイメージを探る上での核心となるものを得ることができ、それらを解釈する資料を紐づけて、文化やイメージが生起・変容する背景を含めて分析することができた。とりわけ、メディア資料を手掛かりとして、女性は家事・育児から解放され活き活きと働いていたという社会主義のイメージを覆す論拠を確立したことは成果の一つである。結婚、家族、子育てこそが社会主義社会の中心課題であると社会主義理念が再構築された以降のジェンダー・モデルの変容を示し、その変容が受容された背景として、家事・育児の分担についての言説が生まれなかったために、労働と家事・育児を両立させなければいけない女性が疲弊したこと、思想統制の強化に伴い、人々が家庭に真の社会と物心両面の充足を見出すようになったことなどを明らかにした。 また、2000年代前半から後半にかけてのメディアに見られる女性表象の変容を分析し、社会主義期のジェンダー・モデルが自由な表現手段を得てより自由に表象される文化・風潮が、二項対立的に男性と女性を関係づけるジェンダー文化・風潮に置き換えられたことを明らかにした。女子学生による卒業論文やNGO調査の分析からも、彼女達をとり巻く環境の中に二項対立的なジェンダー・モデルが見出されることは明らかであった。この点についてはさらに分析を深める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度まで国外への移動が困難な社会情勢にあり、チェコ調査が実施できなかったため、チェコ調査実施を主たる目的として研究期間を延長した。しかし、COVID19、およびロシア・東欧間の緊張を鑑みるとチェコ調査実施は依然として困難であるかもしれない。今年度はチェコ調査を実施し、特に2010年以降のメディア等の情報を収集・分析する予定であるが、昨年度から、日本において情報収集を行う手法を検討、実施してきたので、状況に応じて対応していくことが可能である。 2022年度の研究のねらいは以下の二つである。第一に、昨年度に引き続き、チェコのメディア等を通じて伝達されるジェンダー・モデルを明らかにすることである。特に2010年以降のメディアが表現する女性のイメージや女性文化について分析する。 第二に、女性のジェンダー・モデルとその生成・変容背景に関してチェコと日本との間で比較分析を行うことである。これまでの研究から比較研究に必要な題材はおおよそ整っている。比較分析における主要な観点は、以下に示すとおりである。①女性のジェンダー・モデルは、チェコでは社会主義期、日本では高度経済成長期にそれぞれの原型が成立し、類似性が高いものの、その成立背景が異なるゆえに、女性の意識に及ぼした影響が異なっている。②上記①の時期に成立した両国の子ども文化、若者文化は、それぞれの社会・経済状況、およびそれ以前の伝統の上に誕生したものであり、相違点を含んでいる。③テレビ等メディアの質・量とそれが子ども・若者に及ぼす影響は両国において大きく異なっており、ジェンダー・モデル形成に果たす要素も異なっている。④チェコにおけるポスト社会主義期のジェンダーは、独自の変容プロセスを経て、現在は女性の他者性を強める傾向にある。 以上の観点について、今年度の調査・分析結果を踏まえて総括的に比較分析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度、2021年度予算にはチェコ調査費用(渡航費、文献収集費)が含まれていたが、COVID19の影響でチェコ調査が実施できなかった。また、学会発表等の国内旅費も含まれていたが、学会発表はリモート発表形式で行われたため、国内旅費として使用することがなかった。したがって、海外調査を実施するために研究期間を延長し、主として海外調査費分として2022年度への持ち越しとした。しかし、変わらず海外渡航が困難なようであれば、本来チェコ調査において収集できる資料や情報を日本国内から購入する費用として用いることとなる。
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