2019 Fiscal Year Research-status Report
保育士の離職防止に役立つ保育士キャリア・パースペクティブマップの作成
Project/Area Number |
19K02603
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Research Institution | Sanyo Gakuen University |
Principal Investigator |
松浦 美晴 山陽学園大学, 総合人間学部, 准教授 (00330647)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上地 玲子 山陽学園大学, 総合人間学部, 准教授 (40353106)
岡本 響子 天理医療大学, 医療学部, 教授 (60517796)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 保育士 / 離職防止 / キャリア / キャリア・パースペクティブ / TEA / 促進的記号 / 時間的展望 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,保育士の「自分の人生における,職業生活を中心とした生き方の,実現可能性が加味された短期的・長期的見通し」である「キャリア・パースペクティブ」の内容通出とマップの作成である。当該年度は、保育士資格保持者個人を取り巻く社会文化的記号を抽出するインタビュー調査に着手した。手法として、TEA(Trajectory Equifinality Approach:複線経路等至性アプローチ)を用いた。これは、社会文化的記号の「促進的記号」(ヴァルシナー,2007)が行為や選択のプロセス上の分岐点となって、個人の行動選択が生じるという考えに基づき、サトウら(2009)が開発した質的研究の手法である。 2019年度は、保育士養成機関において保育士資格を取得した個人が、「保育士キャリアを開始する・しない」という分岐点において選択を行う際に発生する促進的記号の抽出を目的とし、半構造化インタビューを実施した。対象は、保育士資格後に、保育士としての就労を選択しなかった3名であった。その結果、養成機関在学中の施設実習を契機に、目標が「保育士になること」から「保育士資格を取得すること」に変化することが示されつつある。そしてその背景には、社会が与える「資格への価値」が促進的記号として存在し、対象者たちが保育士資格を、いつでも保育士として就職できる「いざという時に使えるカード」「保険」として保持した上で、他の進路を模索していることが明らかになりつつある。こ調査と並行して、これまでの申請者の関連研究を学会で発表し、論文の投稿を行った。また、キャリア・パースペクティブの概念を整理し論文として発表した。 2020年度以降は、当該年度の調査結果を学会で発表する。また、養成機関卒業後に保育士キャリアを開始した資格取得者に同様の手法でインタビューを行い、さらに多くの促進的記号を抽出してゆく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は、保育士のライフコースとキャリア・パースペクティブの内容を抽出することを目的に、インタビュー調査を実施する計画であった。内容抽出の手法として、対象者を取り巻く社会文化的記号を抽出するTEAが有効であると考えた。研究代表者、研究分担者が研修会に参加し、手法を身につけた。続いて、保育士養成機関において保育士資格を取得した個人が、「保育士キャリアを開始する・しない」という分岐点において選択を行う際に発生する促進的記号の抽出を目的とし、半構造化インタビューを実施した。保育士キャリアを開始しなかった対象者3名へのインタビューを行った。 その結果、「保育士になること」ではなく、「保育士資格を取得すること」が対象者にとって価値を持つこと、その価値は現在の社会状況によって与えられていることが明らかになりつつある。社会が与える「資格の価値」が促進的記号として対象者に保育士以外のキャリアへの志向をもたらしている可能性がある。 本来であれば、こうした結果をTEAの研究会等で発表し、助言を受けながら分析を深めることになるが、年度末より新型コロナ感染拡大により、研究会、勉強会の多くが中止または延期となり、研究の進行が滞りがちとなった。また、この結果は本研究課題申請時の想定を超えて、新たに浮かびあがったものであるため、さらなる探求に適したインタビュー対象者の選定が必要である。新たなインタビューについても、新型コロナ感染拡大によって停滞することとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の状況をふまえ、2020年度は、次の推進方策を取る。まず、新たな調査対象者として養成機関卒業後に保育士キャリアを開始した資格取得者を選定し協力を依頼する。当該年度と同様TEAの手法を用いた半構造化インタビューを行う予定である。保育士キャリアを開始しなかった対象者に見られた促進的記号である「資格の価値」が、保育士キャリアを開始した対象者において発生していたかどうかを確認する。同時に、保育士キャリアの開始において機能する、社会文化的背景から生じる促進的記号を抽出してゆく。 ただし、現在の新型コロナウイルスの影響が終息するまでは時間がかかるとみられ、対面でのインタビューが困難な状況が継続すると予想される。こうした状況下で研究を推進するため、Zoom等のインターネットツールやWeb調査会社を利用した、オンラインによるインタビューを実施することも考えている。そのための研究費用の使用計画の見直しを行っているところである。
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Causes of Carryover |
大きく分けて理由は2つある。まず、当初の計画では、長期にわたり就業継続している保育士、離職した元保育士を対象に、インタビュー調査を行う予定であった。前者からは就業継続につながるパースペクティブの内容、後者からは離職につながる内容を抽出できると考え計画されたものであった。しかし、当該年度に実施したインタビュー調査の結果から、保育士のキャリア・パースペクティブの中にある、想定外の促進的記号が抽出されつつある。この新たに抽出された促進的記号について検討するため、当初の計画を中断し、対象者の変更を検討している。次に、年度末に新型コロナウイルス感染拡大の影響で、県境をまたいだ移動ができなくなり、研究会等参加のための参加費、旅費等の使用がなくなった。これらの理由のため、当初のインタビュー調査のために予定していた予算執行の一部が次年度に先送られることとなった。 これらの予算は次年度必要となる。養成機関卒業後に保育士キャリアを開始した資格取得者を対象者とし、TEAの手法を用いた半構造化でインタビューを行う。新型コロナウイルスの影響が継続すれば、Zoom等のインターネットツールやWeb調査会社を利用した、オンラインによるインタビューが必要となる。また研究会参加のための参加費、旅費等の使用が必要となる。そのために予算を使用することになる。
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