2020 Fiscal Year Research-status Report
スウェーデンの学校査察と教育的ドキュメンテーションにもとづく保育の質に関する研究
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19K02654
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Research Institution | Aichi Shukutoku University |
Principal Investigator |
山下 泰枝 (岡田泰枝) 愛知淑徳大学, 福祉貢献学部, 准教授 (90710541)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白石 淑江 愛知淑徳大学, 福祉貢献学部, 教授 (10154361)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 保育の質 / 教育的ドキュメンテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度はスウェーデンの学校査察庁(Skolinspektionen)がまとめた資料からスウェーデンにおいて保育の質について考える際、どのようなことを重視しどのような点を査察し評価するのかといった査察内容について、まずは国レベルで検討を進めることを目的とした。 学校査察庁は国の委託を受けて2015年から2017年にかけて就学前学校の質に関する調査を行い、「最終報告 就学前学校の質と目標の達成-就学前学校に関する 3 年間の政府委託調査-」(以下「最終報告」と記す)(2018)として報告している。これはスウェーデンの就学前学校が学校法(2010)に独自の学校種として明確に位置づけられて以降、他の学校種と共通の基盤に立ってどのように組織的な質の取り組みを行っているのか記された資料である。この報告書の内容を精査することで、組織的に質向上の取り組みを行っているスウェーデンの実情や課題について理解を深め、日本においても質の向上に関して取り組むべき具体的な方法等について参考にできることがあると考えた。具体的な方法として、この資料の内容をスウェーデンの研究協力者であるIngrid Engdahl氏と共に読み合わせし、オンラインでミーティングを行うことによって理解を深めていった。ミーティングでは日本の就学前の子どもたちの施設に関する実情や課題等を提案することも行い、両国間の違いを埋めるよう努めた。 スウェーデンにおいて質が高いと評価できる就学前学校の大前提として、民主主義の理念を学校の実践に浸透させていることや子どもに刺激的な環境の下で相互作用が行われていること等があげられることがわかった。一方で、就学前学校の質向上の課題として、教師の資格保有やグループサイズの適正化、就学前学校の教育内容に"teaching"という概念が浸透していないこと等があることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
スウェーデンの幼児教育の質の理論的枠組みを捉えるという目標については目処があってきているが、保育現場の実践レベルにおいて学校査察庁や自治体の査察がどのような意義を持つのか、また質向上の取り組みと教育的ドキュメンテーションとの関連についての解明等については深められてはいない。 特に新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大の継続により、令和2年度も訪瑞しての現地聞き取り調査が実施できていない。当初の研究計画では、保育現場において査察がどのような意義を持つのかといったことや自治体レベルでの学校査察の在り方等について等を聞き取り調査し学校査察の在り方から得られる保育の質向上への取り組みを模索する予定であったが、現在実現できていない。 また、教育的ドキュメンテーションと保育の質との関わりについてや、実践の現場において教育的ドキュメンテーションが保育の質に関してどのようにとらえられているのか、査察の際は教育的ドキュメンテーションをその学校の教育の質とどのように関連づけているのかといったことは深められていない。今後、文献資料や研究協力者とのオンラインミーティングを通して理論的に深めていく。 当面の間現地に実際に訪れて関係者から聞き取り調査を行うことは難しいと考えられるため、調査方法を検討し残された課題を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
学校査察庁の最終報告によれば、質に関する課題に就学前学校の教師が"teaching"(以下教えると表記)に対して消極的である、もしくは行っていないということがある。一般的に教えるという活動は対象者に物事を伝える(時には一方的に)という印象がある。そのためスウェーデンの教師たちも積極的になれない面があるという。しかし教えるという概念を理解しどのように実践するかということを考えることによって、質向上のために取り組むべきことが見出せると今までの調査から考える。 最終報告には、教えるとは「価値観や知識の習得と発展を通して、子どもの発達と学びを促進することである」と述べられている。また就学前学校教師の責任として、ナショナルカリキュラムには「ケア、発達、学びが全体像を形成すること」と書かれている。これらの理解をすることによって、スウェーデンにおける質の高い就学前教育について理論的に明確になり、それをもとに日本において参考にできる取り組みを見出すことができると考えられる。 その際、スウェーデンの幼児期における教育についての考え方も明確にしておかねばならない。スウェーデンでは就学前学校のナショナルカリキュラムにおいてケアと教育の統機能統合としての”EDUCARE”モデルを子どもの総合的な発達の前提として考えている。一方、日本は「養護と教育の一体となった」保育を前提としているが、それぞれの社会的背景等から、ケアと養護、両国の言う教育が果たして同じような意味合いであるのかを今一度整理する必要がある。 今後、教えるということとEDUCAREの在り方についての概念的な整理を文献資料や現地の研究者との意見交換によって深めていく。教育的ドキュメンテーションと保育の評価との関わりについても同様である。訪瑞が可能になれば、現地関係者に明らかになった内容について実践と絡めた聞き取り調査を行う。
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Causes of Carryover |
令和2年度も新型コロナ感染症の世界的な感染拡大の継続により、予定していたスウェーデンを訪れて行う現地関係者からの聞き取り調査を実施できなかったことが次年度使用額が生じた理由である。 今後はオンラインを活用した聞き取り調査やアンケート調査等について検討するとともに、オンラインミーティングを活用し研究を進めていく。その場合、令和2年度同様、外国語の資料翻訳ややり取りについては、場面に応じて翻訳者の依頼が研究計画立案当初より増加すると想定されるので次年度使用額の一部はその謝金として使用する。スウェーデン語の資料も研究協力者から紹介してもらい収集する予定であるので、その費用に充てる。オンラインミーティング開催時、参加者や通訳者の謝金にも充てる。また、聞き取り調査等をオンライン活用にて行う際、現地のコーディネートを要すると考えられるので、現地コーディネーターの謝金にも充てる。 実際の訪瑞と全く同じ様に進めることは難しいが、オンライン活用しながら現地の関係者からの情報収集を行っていく。
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Research Products
(2 results)