2020 Fiscal Year Research-status Report
ヨーロッパの歴史教科書との比較による社会科「市民革命」像の再検討
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19K02682
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
槇原 茂 島根大学, 学術研究院教育学系, 特任教授 (00209412)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 歴史教科書 / 市民革命 / ブルジョワ革命 / シティズン / イギリス / フランス / 近代 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究計画にしたがい、①日本の戦後歴史学における「市民革命」の研究と概念の変遷を跡づけ、②イギリスとフランスの革命史の動向を踏まえつつ、両国歴史教科書の分析を進めた。 そして①については、概略次のような経過を考えている。日本においても実証研究が進められていくにしたがい、1960年代以降英仏の革命を「ブルジョワ(=市民)革命」として捉える研究は減っていき、80年代にはほぼ見られなくなった。しかし他方で「市民革命」の用語はその定義があまり意識されることなく、人文社会科学諸分野で引き続き用いられ、とくに1980年代末以降の冷戦終結と東欧革命に関連させて「市民革命」が論じられるうちに、公共圏の革新、民主化の起点としての「市民(=シティズン)革命」へと意味が転化していったのではないか。 他方、現時点で確認できたかぎりでは、②イギリス、フランスの中等教育の歴史教科書において、ブルジョワジーが中心的アクターとなった社会革命として英仏の革命をとらえる観点は皆無といってよい。むしろ、政治制度の民主化や市民の平等(女性など排除の問題も合わせ)といった点を強調している教科書が多い。この民主化を重視する観点は、現在の日本の学習指導要領や社会科教科書による「市民革命」の意義づけとさほど乖離していないとも言える。 以上を踏まえると、学習指導要領や教科書の記述に「市民革命」を引き続き用いるためには、「シティズン」の意味での「市民革命」概念によって諸革命を概括的に捉え論じることの歴史学的な妥当性が問われなくてはならないのではないか。現時点の見通しとしては、「市民革命」概念を捨て去るよりも、定義しなおし、共通理解を構築していく方が望ましいと考えている。この点に関する考察を深め、2021年度以降研究発表、論文として成果を公表していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルス感染症対策の影響により、1年の間オンデマンド授業の作成に追われてしまい、本課題のエフォートが制限される結果になった。また、在宅勤務によって文献資料の分析も十分行えない期間も生じたりして、研究が円滑に進捗しなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に追いつけるようエフォートを引き上げ、少なくとも研究成果を口頭発表できる段階にまで進める。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」欄で記述したとおり、新型コロナウィルス感染症対策の影響で計画どおりに進められず、学会発表のための出張もできなかったため。
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