2019 Fiscal Year Research-status Report
防災道徳の実践的確立ならびに基礎的理論と評価方法の研究
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19K02762
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Research Institution | Naruto University of Education |
Principal Investigator |
谷村 千絵 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (40380133)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 批判的実在論 / 防災道徳 / 道徳教育 / 防災教育 / モラル・ジレンマ / クロスロード / 子ども哲学 / 当事者性 |
Outline of Annual Research Achievements |
「防災教育」の理論研究を主に進めた。研究実績としては3点挙げられる。 まず、本研究の理論的基盤である批判的実在論(Critical Realism,以下、CR)について研究を進めた。国際CR学会(8月、サウザンプトン大学、英国)で、防災教育の哲学と題し、CRにおける害悪(ills)概念の考察から、害悪を取り除くための実践は必然的に倫理的道徳的課題を有することを明らかにし個人研究発表を行った。研究補助として2名の研究者に同行を依頼し、学会員との交流を深めた。学会後、Skypeを用いて、交流のあったローズ大学の研究者を加え、道徳的実在論に関する国際研究会を継続的に行った。 次に、教育とCRに関する共著論文が、国際CR学会のジャーナルに掲載された。 最後に、理論的研究のための予備的作業として、「防災道徳」の先行研究の現状と課題を明らかにする論文を発表した。先行研究の「防災道徳」は道徳の授業でモラル・ジレンマの授業を踏襲しており、理論的にも実践的にも、防災と道徳の内容の非連続性が課題となっていた。本研究では、両者の共通点として、現実世界の複雑さに対応する能力、そして、知識や技術と道徳性,倫理,価値判断とを結びつけて考え行動する能力の育成を目指す点を挙げており、複雑な状況に当事者として立つ「当事者性」を基底とすることで、両者をつなぐ防災道徳が構想可能であるとの結論に達した。 なお教育実践としては、「防災道徳」のひな形の授業(クロスロードをアレンジした防災ジレンマゲームと子ども哲学の手法を取り入れた「ジレンマほぐし」のセット)を県内2校の中学校で実施した。1校は文部科学省の「学校安全総合支援事業」における災害安全のモデル校である。また、県内の小学校で子ども哲学クラブが発足し、筆者は実践のための打ち合わせに随時、参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
CRに関する研究では、国際学会で個人発表を行なったが、学会参加がきっかけとなって、道徳的実在論に関する国際的な研究会の発足につながった。道徳的実在論の議論から防災道徳についてどのような知見が得られるかは現時点では定まっていないが、道徳とは何かを根本的に考える議論であり、いずれ本研究にも役立つものと思われる。 また、これまでのCRの研究成果として、国際ジャーナルに教育とCRに関する共著論文が掲載された。この論文は、防災道徳をテーマとするものではないが、CRで教育(特にESD)をとらえる際の一つの見方を示すものであり、防災道徳の教育にも通じる。CRを理論的基盤として構想する教育実践の「防災道徳」のための大きな成果を得たといえる。 教育実践については、文部科学省による「学校安全総合支援授業」の一環として本研究の授業を実践することができた。防災教育に関心のある教員とのつながりも生まれ、今後、実践の場を広げていくために有効な手がかりが得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの理論研究を継続的に進めるとともに、実践についても活動の場を広げ防災道徳のプレゼンスを高めていく。 理論研究では、防災道徳の理論的基盤について、2019年度、英語で発表したものをもとに、研究を展開していく。防災も道徳も、文化的歴史的文脈が大きく関わるものであることから、日本の今日的状況に置ける本研究の意義を考えていかなければならない。CRのills概念の考察から導かれた防災道徳のための哲学が、日本の学校教育においてどのような意義をもつかについて、国内の関連学会で発表もしくは学会誌に投稿する。 また、「防災道徳」のひな形としてのこれまでの教育実践のデータと今年度の実践データを取りまとめ、実践課題と今後の可能性について検討を行なう。これについても、国内の教育系の学会で、研究発表ないし論文化を積極的に行なう。 2020年度は、新型コロナウィルスの感染対策のため、国内、国外ともに、学会の開催可否が見通せない状況にある。また、居住する地域の学校は休校を余儀なくされているため、授業実践の場が予定通りには得られないかもしれない。 学会発表や授業実践が難しい場合は、理論研究を主とし、論文発表を積極的に行う。
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