2020 Fiscal Year Research-status Report
The study of the learning process sharing and visualization obtained from the experiences - The shortcut to the professional -
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19K03053
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
藤井 規孝 新潟大学, 医歯学系, 教授 (90313527)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥村 暢旦 新潟大学, 医歯学系, 講師 (90547605) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 歯科治療 / 技術教育 / invisible tips |
Outline of Annual Research Achievements |
歯科治療技術は言葉や図で説明することが難しい感覚的な領域に潜むtips(上達するためのコツやポイント)を含んでおり、代表的なものとして治療時に術者が患者に加える力の大きさがあげられる。歯科治療時に術者が力の大きさを適切にコントロールすることは、適正な治療結果を得るために必要不可欠であり、患者に与える不快感に対する配慮にもつながる。しかしながら、術者自身の感覚に関係するこれらのtipsは、言葉や図で説明することが困難で指導者が行うデモンストレーションを学習者が客観的に確認することができない。また、治療の手順や器具の取扱とは異なり、各種シミュレーターを用いたトレーニングによって学習者が会得することを期待することも難しいため、現状においては治療時の力の大きさに関する効果的な教育方法は存在しないといえる。そのため、歯科治療時に適切に力の大きさをコントロールする能力は、それぞれの術者が自らの経験に基づいて修得していると考えられ、歯科医師の完成を遅延させる一因になっていると思われる。我々は、歯科治療時に術者が患者に加える力の大きさを定量的に評価することに焦点を当てて研究を進めており、これまでに歯科医師の処置中の力の大きさを測定し、臨床経験を通じて力をコントロールする技能が変化することを明らかにしてきた。しかし、力の大きさに対する概念は個人によって異なり、術者の手の大きさや指の長さ、握力、性別などは力の大きさのコントロールに少なからず影響を与える事が予想される。そこで、これらの術者の身体的個人差が比較的高頻度に行われる一般的な歯科治療の力の大きさのコントロールに与える影響を確認するために調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研修開始直後の研修歯科医師22名(男性9名,女性13名,平均年齢26.2歳)を被験者として、術者の握力および手の大きさと処置時の力の大きさの関係性を調査した。対象処置には臨床経験量の大小に関わらず、一般歯科治療において比較的高頻度で行われる歯周ポケット検査(PPE)、歯肉圧排(GR)、抜歯(EXT)、全部鋳造冠の装着(FMC)および全部床義歯の印象採得(FD)を選択し、フォースゲージ(ZTA-50N,ZTA-100N、IMADA社)付改造マネキン(シンプルマネキン、ニッシン)を用いてそれぞれの処置時に被験者が仮想患者の下顎(マネキンに装着した模型)に加えた力の大きさを計測した。一方、被験者の握力はデジタル握力計(N-FORCE, CORVETTE)を使用して測定した。被験者の手の大きさについては、両手の橈骨茎状突起と尺骨茎状突起を結んだ線分の中点と各指の中手指節間関節(MP関節)相当部および爪先のそれぞれにマーキングを施し、三脚に固定したカメラで被験者の手と定規を同時に撮影した画像上で手の大きさに関するパラメータ(cm)を算出した。その結果、PPEを実施する際の力の大きさは女性の方が、握力および手の大きさについては男性の方が有意に大きいことが明らかになった。また、処置時の力の大きさと握力についてはFDと握力についてのみ有意な正の相関を認めた。しかし、ほとんどすべての処置において握力と手の大きさの間には有意な正の相関がみられた。以上のことから、術者の握力や手の大きさによって歯科治療時の力の大きさに個人差を生じる可能性があることが示された。 今回得られた結果を参考にさらに詳細な調査を継続することによって、本研究課題が目標としている歯科臨床技能教育の効率化への寄与を期待することができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今回術者の力の大きさを計測するために選択した歯科処置は、器具を把持して行うもの(PPE、GR、EXT)および対象物と下顎下縁を握るように力を加えるもの(FMC、FD)に分類することができる。今回の調査では明らかな結果を得ることはできなかったが、握力や手の大きさと処置時の術者の力の大きさに相関がみられたことは大変興味深い。高頻度に行われる一般的な歯科処置には、たとえば抜歯など器具を使用して力を加えるものが含まれるため、今後研究を進めるにあたり、大いに参考になると考えている。これまでの研究成果として、処置毎に適切な力の大きさが存在することをつかみかけているように思われるため、次年度には力の大きさが治療結果に与える影響をより具体的に検索する予定である。すなわち、①被験者を義歯の適合診査を行う際に術者が加える力の大きさを学習したグループとそうではないグループに分ける、②各グループにおいて義歯の適合診査材に表れる強接触部位の様相に関する調査を行う、③強接触部位のうち、調整が必要と思われる箇所を判断する能力を確認する、ことを目的として研究を実施する。③に関しては力の大きさ以外の要素(義歯の内面の強接触部位が使用時の痛みにつながっていることに対する理解や同部の調整が必要と判断するための根拠など)が含まれるため、この点に関しても力の大きさとは別に検討する。適正な歯科治療を実施するためには問題解決能力が必要不可欠であり、臨床ではまず状態を判断するための材料を正確に収集し、次に判断材料から的確に問題点をみつけて修正することが求められる。ここまでの研究によって第一段階をトレーニングする方法がみつかりつつある。このため、もっとも術者が患者に加える力の大きさが影響すると考えられる義歯の適合診査、さらにはその先にある要調整部位(強接触部位)の判断を含め、即戦力的に臨床に適用できる教育方法の構築を目指す。
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