2021 Fiscal Year Research-status Report
What makes presentation of similarity and commonality backfire on peer support?
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19K03193
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
増田 匡裕 和歌山県立医科大学, 保健看護学部, 教授 (30341225)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ピアサポート / グリーフケア / ソーシャルサポート / 対人コミュニケーション / 友人関係の発達過程 / 対人援助 / ダイアログ / 共同主観性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の3年目もCovid-19の感染状況に翻弄され、全く成果を上げることはできなかった。しかしながら、他の研究者やピアサポートグループとの交流により、本課題の申請時には想定し得なかった理論的展開が見込めることは確実となった。本課題の本来の目的である、対象者との類似性・共通性を無駄にしない対人援助のコミュニケーション・スキル開発のために必要な、新しいコミュニケーション理論の構築と、それをサポートするデータ収集の準備を慎重に進めた。それゆえ研究終了を急がずに、期間を1年延長する制度を有効に活用することとした。 本課題は、個人内態度構造を明確に記述するパーソナル・コンストラクト理論を応用した対人コミュニケーション理論を、ピアサポートの分析及び実践に応用することを目的としている。この試みの最も困難な点はパーソナル・コンストラクト理論の技法であるレパートリー・グリッド法の煩雑さである。対人援助者と被援助者の類似性・共通性を比較・対照することに、主観性の数量的測定法であるQ技法を転用することが可能であるか、批判心理学の専門家たちと討議して、メリットとデメリットを精査した。 ピアサポート実践家たちからの助言を得るために、グリーフケアの自助グループとの交流を継続し、開催が中止にならない限りは会合に出席した。当事者同士の類似性・共通性の問題が葛藤の原因となりやすいLGBTQsの団体への関与も深め、本課題の成果を応用する新たな現場を得た。これらのピアサポート活動において、成果を焦らず、特定の立場に阿らない参加をしていることが評価され、自由に口にしたアイディアに対する率直な意見を得られるようになった。現実に応用可能な研究には必要な準備状態である。 国際的な学術交流についても、対面による意見交換は事実上不可能な状況が続いていたため、今年度については関連学会の公式出版物を通じた情報収集に留めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本課題を実施するには、質問項目の準備のためにインフォーマントから助言を得る必要があるが、リモート会議などに容易に参加できない方々との接触が困難であり、予備調査自体を断念せざるを得なかった。本課題のバックボーンであるパーソナル・コンストラクト理論を用いた対人関係の発達のコミュニケーション理論の展望は2019年度末に学会発表したが、その発表を展開させた論文の査読と改稿は2021年度にも続いた。この間、批判心理学的な見地を取り入れ、レパートリー・グリッド法ではなくQ技法を応用する研究に転換した。我が国ではQ技法が用いられることは少ないため、一旦白紙に戻した状態から文献収集のみによって方法論を再構築することになり、2021年度内にデータ収集に着手することができなかった。 本研究は基盤研究とはいえ、個人内態度構造を重視する点で、社会心理学研究としては萌芽的・挑戦的な研究であり、その成果は既存の社会心理学・対人コミュニケーション論に対して批判的である。そのため方法論を含め理論的な厳密さには、更なる慎重さが求められる。他の研究者との交流が批判心理学研究会での発表だけに留まらざるを得ない状況での理論の練磨は困難であった。医療系大学の研究倫理委員会(IRB)に対して、本研究が侵襲性の低いミニマムリスクのものであることの説明をするには入念な準備が必要である。 Covid-19の影響もあり、本務校における用務が容易ならざる中で研究環境も悪化し、年度半ばから年度末にかけて諸問題を改善することに時間を要したのも研究の遅滞の原因である。
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Strategy for Future Research Activity |
Q技法を本課題に応用するためには、「コンコース」と呼ばれる、あるテーマに関する幅広い意見リストを作り上げる必要がある。これにはインフォーマントの協力が不可欠である。幸い昨年度の研究活動で、当事者とのラポールを維持しているため、IRBの承認を得られ次第、予備調査を開始する。現在はQ技法の準備と並行して、「ピア」すなわち「同じ体験をした者同士」が主体者となる対人支援について、肯定的・否定的な意見の収集中である。 グリーフケアやLGBTQ+支援に共通するのは、「全く同じ経験」の体験者はあり得ないという前提で、お互いの差異をどの程度まで共有できるかという対人コミュニケーションの根源の問題である。言い換えれば「人はなぜ他人になれないのか」そして「人はどこまで他人になれるのか」という理論的な問いであり、それを実際のデータで説明するのが本課題の当初の目的である。課題遂行は甚だしく遅滞しているものの、本来の目的からは全くそれておらず、しかも実践家とのディスカッションを通じて出版可能な理論に磨かれつつある。データ収集と並行して、年内に最適な読者層を持つ国際学術誌に展望論文を投稿するため、文献収集も実施する。 「コンコース」の準備自体がフォーカス・グループ・インタヴューの研究となり得るため、Q技法を用いた研究の副産物として、「ピアサポート実践者のライフストーリー」のナラティヴ分析による質的研究が生まれる。遠隔通信手段を整備することで、ピアサポートのケーススタディを実施する。
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Causes of Carryover |
研究手法としてQ技法を採用する変更をしたため、方法論の理論的な妥当性や現実性の吟味が必要であった。また、予定していた情報収集目的の学会出張が叶わず、辛うじて出席できたピアサポートの会合にも時間制限がかかり、十分な意見交換が果たせなかった。 1年延長した2022年度には、遠隔通信設備の普及により、ある程度とのインフォーマントとの交流が可能になり、そのための通信費に補助金を充当する。また、Covid-19の感染状況に対応した本務校の教職員行動指針に従いながら、可能な限り対面式の会合に出席して、データ収集を実施する。そのための調査旅費に充当する。 Q技法は遠隔でも実施可能であるため、調査業者への委託や謝金などの経費に2022年度使用額を用いる。
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