2020 Fiscal Year Research-status Report
熟練教師の授業認知を追体験しながら学ぶVRコンテンツの開発
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19K03259
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
松尾 剛 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (50525582)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 実践知 / 教師認知 / 教師教育 / 仮想現実(VR) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,教師の授業認知の過程を仮想現実(virtual reality:VR)によって追体験し,効果的に学ぶことが可能なコンテンツの作成である。2020年度の研究実施計画は,様々な経験年数の教員に360°カメラで撮影した授業動画を視聴してもらい,考えたことや感じたことを語ってもらうことで,効果的な教材として備えるべき内容について検討することであった。 年度当初に予定していた,学校での教師を対象とした調査が困難になったため,代替案として教員を目指す大学生を対象とした調査を実施した。教員養成大学に通う1年生から4年生21名に,360°カメラで撮影した授業の様子をタブレットを用いて視聴してもらった。調査協力者はタブレットを用いて自由に映像を動かすことが可能であった。動画を視聴する際の様子をビデオ録画して,その過程を分析することにより,教育実習等の経験の違いによって授業の見方がどのように異なるか,などの点を検討した。また,ビデオ視聴後には,授業動画を見ている際にどのような点に注目し,どのようなことを考えていたか,などに関する面接調査を実施した。 動画視聴後の調査協力者の語りと,動画の視聴過程(単位時間あたりに視点を切り替えた回数,どのような視点からどのような視点に切り替えたかなど)に関する分析の結果,学年による違いが存在することが示唆された。本年度の研究成果を通じて,初任者に近い認識を持った対象であると想定される学生の認知過程の特徴(どのような点に気づきことができ,また,どのような点に気づくことが難しいのか)を把握することができたと考える。この結果は,映像コンテンツにおいて利用者に提供すべきポイントを検討する際の重要な基礎資料となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度当初に予定していた現職教員を対象とした調査が困難になったため,代替案として教員養成系大学に通う大学生1年生~4年生を対象とした調査と面接を実施した。調査協力者の学生にはタブレットを用いて自由に視点を動かしながら授業動画を見るように求めた。教室の中心から撮影した動画を用いたことにより,教室前方にいる教師に視点を向ける,映像を動かして教室後方に座っている児童に視点を向ける,など,積極的に視点を移動しながら授業を見ることが必要な状況を設定した。 学生が視聴しているタブレットの画面をビデオ録画することで,授業を見る際の視点をリアルタイムで把握可能なデータを得た。現在,これらのデータについて,視点移動の頻度,視点を向ける対象,などの特徴を分析し,学年による違いなどを整理している。 また,授業動画の視聴後に面接調査を実施し,動画を視聴している際に考えていたこと,本研究で用いた映像の有効性や問題点に対する気づきなどについての語りを得た。一般的なビデオ映像の場合,何を撮影するかということが撮影者が授業を見る際の視点に影響を強く受けることになったり,視聴者の注意が教師の言動に向きがちになったりするといった特徴が想定される。それに対して,本研究で用いたような方法であれば,「教師の説明を児童はどのような様子で聞いているか」「この児童の話を他の児童がどのように聞いているのか」など,その時々の視聴者の問いや関心に基づいて自由な視点を取ることが可能であるといった有効性を確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は昨年度までの調査結果を踏まえて,教材用のVRコンテンツを作成する。そのために,まずは教職経験が長く,授業を見る際の視点が豊かで多様であると考えられる教員を対象として,同じ360°動画を視聴してもらう。その視聴過程(視点移動の回数や視点の遷移など)や気づきの内容について,すでに実施済みの大学生を対象とした調査結果と比較する。そのことで,学生ならではの授業認知の特徴をより明確に把握し,特に初任者を主な対象として想定した教材として備えるべき内容について精査する。 作成予定の教材の具体的なイメージとしては以下の通りである。経験年数の違いによって授業認知の違いが見られたポイントで一時的に映像をストップし,「この時,あなたなら,どこを見ますか?」「どのような点に気づきましたか?」といった問いかけを提示する。そして,実際にVR上で教室を自由に見回しながら考えることを促す。その後に,熟練教師の視点からの映像を提示し,その時,何を見て,どのようなことを感じ,どのような解釈をしたのか,といった説明を加える。本年度のできるだけ早い段階でパイロット版の教材を作成し,その有効性についての検討を行う計画である。また,現段階では十分な成果発表ができておらず,その点についても速やかに進めていく計画である。
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