2021 Fiscal Year Research-status Report
無限次元タイヒミュラー空間上の複素力学系的理論の構築
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19K03513
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
藤川 英華 東京工業大学, 理学院, 准教授 (80433788)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 複素解析学 / リーマン面 / 双曲幾何 / 擬等角写像 / タイヒミュラー空間 / モジュライ空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
リーマン面の複素構造の変形空間であるタイヒミュラー空間の研究において,付随する双曲構造の変形に伴い,変化する各測地線の長さを比較して変形度合を測ることが可能である.それを用いて定義されるタイヒミュラー空間上の距離に測地線スペクトラム距離がある.タイヒミュラー空間の商空間である漸近的タイヒミュラー空間上にも同様にして漸近的測地線スペクトラム擬距離を導入することができる.しかし,タイヒミュラー空間上の場合とは異なり,漸近的測地線スペクトラム擬距離は距離になるとは限らない.これまでの研究で,リーマン面がある双曲幾何学的な条件を満たしている場合には距離になることが示されていたが,今年度の研究では,リーマン面上に双曲的長さが0に収束していくような閉測地線の列が存在する場合には,必ず距離にならないことを示した. 双曲型リーマン面上の閉測地線の長さの集合は測地線スペクトラムと呼ばれ,曲面の双曲構造を決定するためのデータとして頻繁に用いられている.リーマン面が有限型面の場合には,測地線スペクトラムは実数上の離散点列となるが,無限型の場合には特殊な場合を除いて集積点をもつ.そこで測地線スペクトラムの集積点集合の全体を本質的測地線スペクトラムと定義する.このとき,二つのリーマン面が漸近的等角同値であれば,それらの本質的測地線スペクトラムは一致することがこれまでの研究でわかっている.そこで次に,本質的測地線スペクトラムの一致が漸近的等角同値を導くか,という自然な問題が考えられるが,本研究では,必ずしもそうではないことを示した.つまり,本質的測地線スペクトラムが一致しているが,漸近的等角同値ではないリーマン面の例を与えた.これは双曲型リーマン面における砂田の定理の漸近的版とみなすことができる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
目標としている研究の主要な部分について,その方向性が明らかになった.また問題点と今後の課題も具体的に明らかになっている.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた結果を講演により成果を公表することで,新しい視点を議論したい,また研究連絡やセミナーでの講演を行い,関連する研究者と意見交換をする.
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Causes of Carryover |
当初予定していた出張を行わなかったため次年度使用額が生じた.次年度は,国内研究集会およびセミナーに出席して,関連する研究者との研究連絡を行う.
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Research Products
(1 results)