2021 Fiscal Year Research-status Report
Possibility of localization methods for inverse problems of time dependent problems
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19K03565
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
川下 美潮 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (80214633)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 時間依存型逆問題 / 局所化 / 空洞推定 / 漸近解による方法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目標は、時間に依存した微分方程式で記述される逆問題を囲い込み法により研究する際に現れる漸近挙動の解析に対する「局所化」の可能性の考察にある。逆問題では観測データから定められた「指示関数」と呼ばれる関数の解析を通じて媒質内部の情報を得ようとする。この問題はHelmholtz方程式におけるパラメータを純虚数にした定常問題の基本解の漸近挙動を調べる問題に帰着させるが、この方法で得られた結果は、基本解の一部の情報しか用いていない様に見える。これが正しければ、必要となるべき部分だけを取り出せるような解析を行えば、問題の局所化が出来るはずである。これまでの基本解をそのまま用いる解析は上記の「局所化」については全く考慮していないことを意味している。そこで、基本解から逆問題の解析に必要と思われる部分のみを取り出せるか、もしそれができないのなら、その理由を解明したいというのがこの研究の目標である。この問題について、令和2年度までに得られた成果を参考に次の問題に取り組んだ。 (i) 一様な媒質の中にノイマン型(ロバン)境界条件に従う穴とディリクレ境界条件に従う穴が混在する場合(以下、混在型という)、最短の長さを与える箇所がどちらかの穴に限定されている場合は、単一の境界しかない既存の場合と同じ方法で議論できることを確認した。 (ii) (i)ノイマン型境界条件を消散項付きの境界条件に拡張できることを確認した(混在型では最初の結果になると思われる)。 (iii) 混在型で、最短の長さを与えている穴がどちらの境界条件を満たしているかが分からない場合、ノイマン型境界条件の境界は3回微分可能、ディリクレ境界条件の方は4回微分可能な場合には漸近解を用いて指示関数の漸近挙動を確認できた。 最終年度はこれらの成果をまとめる作業に入ることを考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では筋道がわかりやすい漸近解を用いた方法により指示関数から情報を引き出すことを考えている。しかし、この方法では空洞の境界についての微分可能性を多く仮定することが必要になってしまう。これは素朴に考えるとやむを得ない面はあるが、その中で、それをどう克服するかが重要な課題である。いまのところ、ノイマン型境界条件を持つ境界の近傍における解の評価はほぼ得られているので、最終年度ということを考えると、ディリクレ境界条件の扱いはまだ完全ではないが、これまでに得られた知見をまずはまとめることにしたい。 ディリクレ境界条件を持つ穴がある場合が意外に難しいのは、境界の近傍における近似解の微分に対する評価が必要になるのが大きな理由である。昨年度までの考察で、これらについてかなり考えたのではあるが、まだ満足な解答は得られていない。境界の微分可能性を多め(3回微分可能)に取ればベクトル場を用いた座標変換を導入できるので、解のパラメータに関する一様な評価を得ることが可能であることはわかる。そこで、残念ではあるが、ディリクレ境界条件の方については穴の境界にある程度の滑らかさを仮定することにより、指示関数の誤差評価の部分を出来るだけ早く完成させることを目指したい。 なお、「局所化」の部分についても現在考察中であるが、上の問題を先に解決しておかないと先に進めない状況であることには変わりは無い。研究が遅れている理由は境界の微分可能性を下げる方法を開発することがまだ完全ではないということから来る。引き続きこの部分の検討は続ける必要がある。しかしながら、本題である「局所化」の考察を行うため、必要に応じて、境界の微分可能性について必要なだけ仮定を課すことにして、「局所化」が可能であるかどうかについての検証を行うことも考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの3年間で行ってきた考察や証明の大筋についての軌道修正は必要ないと考えている。研究の方向としては、これまでの路線を踏襲したい。令和3年度までに、ディリクレ境界条件を持つ穴とノイマン型境界条件を持つ穴の両方がある場合において、観測地点からの距離が短い方がどちらかの境界条件の方から与えられる場合には、既存の方法を踏襲することにより、最短の長さを確実に導き出すことができることを確認した。さらに、上の距離が等しくなる場合は、上記の場合とは異なり、指示関数の評価だけでは対応できず、指示関数の漸近形を導く必要が生じる。この部分については、今回採用している近似解を利用する方法によれば、境界の滑らかさを多く(6回微分可能程度)仮定すれば漸近形の主要項を取り出せることが分かった。まずは、これらの部分をまとめ、論文・Proceedings等に出版することを目指す。 この問題の核心は意外ではあるが誤差評価を適切に行うことにある。誤差評価を行うため、元の解を変換することにより、大きなパラメータを含んだ二階線型楕円型作用素の解の評価を与える問題に帰着することができる。そのため、誤差評価問題と楕円型作用素の解の正則性評価とは密接な関係がある。但し、この問題ではパラメータに関する一様評価が要求されるので、既存の正則性評価の手法を用いるのみでは、評価が悪くなってしまい、結局、境界の微分可能性を必要上に仮定することになってしまう。幸い、これまでの研究成果によりノイマン型境界条件の場合は、この点についても比較的良い評価が得られているので、それを改めて確認し、ノイマン型境界条件の方とディリクレ境界条件の方との境界の微分可能性の仮定を別々に設定し、境界の微分可能性を少しでも緩めることが出来ることについて考察し、まとめていくことを考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症対策のため、本研究課題期間中、ほとんどの研究集会の開催が困難となり、出張や出張依頼が難しい状況になり、それは現在でも続いている。一方、インターネットを通じたオンラインセミナー等は昨年度から徐々に定着しつつあり、それらへの対応のための通信機器の購入を今後進める方が良い様に思われる。これまで通信機器購入については必要最小限に止めていたこともあり、出張が出来なくなった分、次年度使用額が生じている。今後は、実際に出張することを計画するのみならず、通信機器のさらなる整備や資料・図書の整理などに予算を使うことにより、今後起こりうる事態への対応を検討する予定である。
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