2020 Fiscal Year Research-status Report
実空間と時間の両領域で見る銅酸化物における擬ギャップ状態と高温超伝導の関わり
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19K03732
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小田 研 北海道大学, 理学研究院, 教授 (70204211)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
戸田 泰則 北海道大学, 工学研究院, 教授 (00313106)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 銅酸化物高温超伝導 / STM/STS / ポンププローブ時間分解分光 / 擬ギャップ / 電子系変調構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、実空間と時間空間の双方から銅酸化物高温超伝導体に固有の擬ギャップ(PG)現象を担う電子系と高温超伝導の発現との関係性の解明にアプローチするため、Bi2212で走査トンネル顕微鏡分光(STM/STS)とポンププローブ時間分解分光(PPTS)を行っている。2020年度における研究実績の概要を以下に記す。 1.STM/STSでは、前年度の研究成果として、PGと関係するチェッカーボード様の変調構造(CB変調)が超伝導準粒子の干渉による変調構造(QPI変調)と実空間において共存することが明らかとなっている。今年度は、類似の波数ベクトルを持つCB変調とQPI変調のq1成分(q1-QPI変調)との共存関係を局所振幅と位相に着目して詳しく調べた。その結果、①これらの局所的な性質は両変調ともナノメータ・スケールの空間的不均一を示すこと、②q1-QPI変調はCB変調の局所振幅が大きくなる領域で強くなる傾向があること、③両変調の局所振幅が大きくなる領域では局所位相が一致する傾向のあることが明らかとなった。②と③の結果はCB変調がq1-QPI変調を齎す準粒子の散乱源となっていることを示唆するものである。この知見を基に本研究では、CB変調がクーパー対密度波(PDW)のようなアンドレーエフ散乱ポテンシャルとして機能する電子系変調構造であることを示した。 2.PPTSでは、最適ホール濃度のBi2212において高強度超短パルス光の照射によるPG状態と超伝導相のコヒーレントクエンチに成功し、その後の両者の形成過程を時間分解で調べることができた。その結果、超伝導の形成開始はPG状態と比べ数ピコ秒程度の遅延があり、この遅延時間はPG状態の形成が完了するまでの時間とほぼ一致し、両者の形成過程に明確な時間相関のあることが分かった。この結果は、超伝導の発現にPG状態が深く関わっていることを示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
銅酸化物高温超伝導体における電子系の大きな特徴の一つは、フェルミ面が二分性を示し、PGが発達するゾーン境界付近の領域(アンタイノード領域)と超伝導ギャップが開くアーク状の領域(フェルミアーク)に分けられることである。また、アンタイノード領域の電子状態は、特性エネルギーEcが異なる2種類の変調構造(CB変調(ペアリングギャップと同程度のEc)およびd構造因子密度波(dFF密度波,PGと同程度のEc))に関与していると考えられている。本研究のSTM/STS実験では、これらの電子系変調構造の局所振幅や局所位相といったミクロな性質を調べるとともに、フェルミアーク上の超伝導準粒子によるQPI変調との実空間相関を明らかにする。また、PPTS実験では、擬ギャップ状態と超伝導の形成過程を時間分解で調べることにより、両状態の形成過程における時間相関を明らかにすることを目指す。 研究実績の概要で記したように、2020年度までにおける研究は不足ホール濃度および最適ホール濃度のBi2212単結晶試料を用いて計画通りに実施され、STM/STS実験からは、CB変調とQPI変調のミクロな性質と両者の実空間相関が精密に調べられ、その結果を基にCB変調の起源と超伝導との関わりに関する新たな知見が得られた。また、PPTS実験からは、超伝導の発現にPG状態が深く関わっていることが示唆された。このように、本研究は、その目的を達成する上で重要と考えられる新たな知見が得られており、順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
以上の項目で記したように、これまでの研究では、不足ホール濃度と最適ホール濃度のBi2212単結晶試料でSTM/STSとPPTSの実験を実施し、研究目的の達成に繋がる新たな成果が得られている。2021年度(最終年度)の研究では、STM/STSからdFF密度波の局所振幅や局所位相などのミクロな性質およびPDWと考えられるCB変調との実空間相関を詳しく調べ、その起源とCB変調との関わりを明らかにする。また、PPTS実験では、PG状態の発達が抑制される過剰ホール濃度のBi2212にも研究対象を広げ、PG状態の発達の程度をパラメータとしてPG状態と超伝導の形成過程における時間相関を調べる。 これまでの研究成果に2021年度の研究で得られた知見も加えて総合的に考察し、PGを担う電子状態と超伝導の発現との関わりについて明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、国際学会に参加するための海外出張旅費および、国内で開催される日本物理学会や研究会等に参加するための国内出張旅費に充てることとしていた。しかし、新型コロナウイルス感染防止への対応から、これらの学会等は現地開催からオンライン開催へと変更になったため、予定していた旅費の支出がなくなった。 これらの未使用分は、2021年度に開催される学会・研究会に参加するための旅費とする他、液体ヘリウム寒剤使用料やオープンファシリティー測定装置使用料に充てる予定である。
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[Journal Article] Hidden magnetism at the pseudogap critical point of a cuprate superconductor2020
Author(s)
Frachet Mehdi, Vinograd Igor, Zhou Rui, Benhabib Siham, Wu Shangfei, Mayaffre Hadrien, Krmer Steffen, Ramakrishna Sanath K., Reyes Arneil P., Debray Jrme, Kurosawa Tohru, Momono Naoki, Oda Migaku, Komiya Seiki, Ono Shimpei, Horio Masafumi, Chang Johan, Proust Cyril, LeBoeuf David, Julien Marc-Henri
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Journal Title
Nature Physics
Volume: 16
Pages: 1064~1068
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] q=0 long-range magnetic order in centennialite CaCu3(OD)6Cl2・0.6D2O: A spin-12 perfect kagome antiferromagnet with J1 J2 Jd2020
Author(s)
Iida K., Yoshida H. K., Nakao A., Jeschke H. O., Iqbal Y., Nakajima K., Ohira-Kawamura S., Munakata K., Inamura Y., Murai N., Ishikado M., Kumai R., Okada T., Oda M., Kakurai K., Matsuda M.
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Journal Title
Physical Review B
Volume: 101
Pages: 220408-1, 6
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Strongly Correlated Charge Density Wave in La2-xSrxCuO4 Evidenced by Doping-Dependent Phonon Anomaly2020
Author(s)
Lin J. Q., Miao H., Mazzone D. G., Gu G. D., Nag A., Walters A. C., Garca-Fernndez M., Marbour A., Pelliciari J., Jarrige I., Oda M., Kurosawa K., Momono N., Zhou Ke-Jin, Bisogni V., Liu X., Dean M. P. M.
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Journal Title
Physical Review Letters
Volume: 124
Pages: 207005-1, 7
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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