2019 Fiscal Year Research-status Report
拡張されたブラックホールで探るゲージ理論の新しい相構造
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19K03871
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石井 貴昭 京都大学, 理学研究科, 特定研究員 (70837666)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ブラックホール / ゲージ重力対応 / AdS/CFT対応 / ホログラフィックQCD |
Outline of Annual Research Achievements |
ホログラフィックQCDにおけるV-QCD模型において、一様物質の近似のもとにバリオン物質の相を実現する研究をおこない、その成果を公表した。そのような相はQCDの低温有限密度領域において実現されうるという結果が得られ、QCD相図でどの領域に現れるかを定量的にも評価した。次の進展として、一様性を緩和したもっとも基本的な具体例として、単一のバリオンを理論のソリトン解として実現するために模型の構造を調べることを進めている。 先行研究でアインシュタイン重力理論の真空解として構成された5次元共鳴ブラックホールについて、その拡張の一つとしてマクスウェル場が結合した場合を考えたときに非自明な電磁波を周囲に伴うような"フォトン的"共鳴ブラックホール解を構成し、成果を公表した。ここで用いる5次元共鳴ブラックホールは対称性のおかげで計量の成分の関数が単一の変数で記述できるシンプルさが利点であるが、新たに得られたフォトン的共鳴ブラックホールも同様の対称性をもつ計量関数で書けるものが構成できることが分かった。同じ対称性をもつ計量で記述できる解は他にも構成できると考えられ、他の種類の場についても解析を進めている。 また、共鳴ブラックホールの動的な性質を理解するために、共鳴ブラックホール解の線形摂動による不安定性解析を進めている。ブラックホールの基本的な摂動論にならい、3次元球面の球面調和関数を用いたモード展開をおこない、各モードに対して不安定性がおこるパラメーター領域を調べている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で考えたい新しい種類のブラックホールの構成は大きくわけて3つの異なる研究方向性を考えることにしているが、総合的にはおおむね順調に進められていると考えられる。このようなブラックホールの構成は解析的に閉じることは難しく数値計算に頼らなければならないが、それには、まず解析的に確認する段階と、その後に数値計算に取り組む段階とを経ることになる。 ホログラッフィックQCDにおけるバリオン物質相は第一段階の一様近似のバリオンについて最初の結果を得た。その次には一様性を緩めて孤立したバリオンをソリトンとして扱う方向性を考えたいが、その状況ではV-QCD模型ではバリオン数に寄与する項に不定性があることが判明し、その項を精査する作業が発生した。これが済めば次は数値計算により解を構成する段階へと移行できそうである。 物性系への応用としての凝縮ブラックホール解の構成は若干停滞気味である。一つには、偏微分方程式になるとアインシュタイン方程式は複雑であり、数値計算の準備が思ったより大変であること。そして、本研究の残りの2つの方向性がよく進んでいるのでそちらにエフォートを割くべきと判断したためである。しかしこのアイデアも手元にあるので、進めたい。 共鳴ブラックホールの研究については、当初より計画にあった研究協力者の村田氏に加え、共鳴ブラックホールの第一人者であるJorge Santos氏とBenson Way氏が我々のアイデアに興味を示し、共同研究へと発展することになった。彼らとのコミュニケーションを通して当初予想していたよりも複雑な発展性があることが分かってきており、この方向性については予想以上の進展が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
大筋としては初年度の結果にもとづいて、当初研究計画で予定している残りの方向性を一つずつ進めていくことになると予想している。そしてまた、新規共同研究者との議論から、あらたな方向性が発生することも期待できるようになったので、枝分かれ的に新しいアイデアにもとづく発展も考えていきたいと思っている。その一方で、問題設定が複雑になっていくことで、数値計算が思ったよりもハードになって時間がかかることを懸念しなければならない気もしている。もし長期化による遅れが著しくなるときには、共同研究者との作業役割を分担するか、特化した計算が得意な研究者を勧誘するなどして、効率的にプロジェクトとして進めることを検討する必要がありそうである。 ホログラッフィックQCDにおけるバリオン物質相は一様性を緩めて孤立したバリオンを数値計算による解として構成することが次の目標である。物性系への応用としての凝縮ブラックホール解の構成は、現時点で得られている結果をあと少し拡張して、まず最初の結果を公表したいと考えている。共鳴ブラックホールについては、当初の予定に沿って解を引き続き拡張していく方針である。また、現在の研究議論で出てきている新しいアイデアを具体化してそれらに関する最初の結果も得たいと考えている。
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Causes of Carryover |
研究開始時に数値計算用コンピュータを調達する予定であったが、使途に柔軟性のある別財源にて調達できたため、その分は未使用になった。その一方で、国際共同研究の機会が当初予期した以上に増えており、旅費の支出増加が予想されるので、共同研究の経費として使用する。
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