2021 Fiscal Year Research-status Report
拡張されたブラックホールで探るゲージ理論の新しい相構造
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19K03871
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
石井 貴昭 立教大学, 理学部, 助教 (70837666)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ブラックホール / ゲージ重力対応 / AdS/CFT対応 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度まではAdS時空における超放射不安定性に焦点を置いてきた。というのも、AdS時空の大域的な構造により波が時空に閉じ込められることが不安定性を引き起こすのに重要な役割を果たしたからである。しかしながら、波の閉じ込めのメカニズムがあれば必ずしもAdS時空でなくても不安定性が起こる可能性がある。この可能性を持つ時空として本年度はブラックストリング時空に注目し、とりわけ特定の高次元ブラックストリング時空に注目した解析において超放射不安定性が起こることを新たに発見した。先行研究では5次元以下のブラックストリングでの不安定性が議論されていたが、高次元に関しては否定的な結果がいくつか知られていただけだった。それに対して、本研究では6次元ブラックストリングについて、特定の重力場の摂動に注目することで不安定性を見出すことに成功した。また、スカラー場やマクスウェル場などの他の摂動については先行研究と整合的に安定であることも追検証し、本研究で注目する重力場の摂動が例外的であることが分かった。そして、これまでの共鳴ブラックホールでの知見と同様に、ここで見つかった不安定性からも共鳴ブラックストリングと呼ばれるべき変形されたブラックホール解が得られることがわかった。 AdS時空でも、荷電ブラックホールの超放射不安定性に関して、Robin境界条件と呼ばれる一般的な境界条件に関する先行研究に触発されて、その不安定性から出現するhairyブラックホール解を構成する共同研究をその著者らと新しく立ち上げた。この研究では、AdS時空の荷電ブラックホールに対して考えられるAdSマクスウェルヒッグス理論において、最も一般的な境界条件を持つhairyブラックホール解が得られることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は前年度までの研究からインスピレーションを得た新しい時空でのブラックホールの研究へと守備範囲を広げることになり、超放射不安定性で実績のある英国サウザンプトン大のOscar Dias氏も加わって研究を進めた。その副作用として、解析の進展にともない多くの解が構成できることがわかり、数値解析に技巧を要することも判明したものの小出しではなく全ての結果をまとめてから研究成果として公表する方針を取ることにしたため、最終段階のデータ解析と論文執筆は年度を超えて継続することになった。研究結果に関しては、可能な範囲で学会・研究会などでの講演で報告をおこなった。この研究に関しては早期に論文を完成させて投稿・出版する予定で作業を進めている。 その一方、この共同研究での議論を通して、研究の種となるアイデアも創発しており、事前調査では肯定的な結果が得られることが予想されている。それらに関しては、現在の作業に目処がつき次第、本格的に取り組むことを予定している。 研究代表者の年度途中での異動にともない、AdS時空のブラックホールとhairy解に関する新しい共同研究を異動先の研究者と新規に開始した。この研究についても主なアイデアに関する解析は完了しているが、その理論のセットアップにおいてもっとも一般的な解を検討することになるために探索するパラメータ空間が大きく、データ解析は翌年度に継続することになった。この研究に関しても可能な範囲について進捗を学会講演で報告を済ませたが、同じく早期に論文を投稿・出版させる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の予定としては、本年度から継続する論文執筆を早期に完了させて、その後は本年度の研究での議論にともない湧いてきた研究の種となるアイデアに取り組むことを予定している。 方向性の一つとしては、本年度の進展によりAdS時空以外でも超放射不安定性に着目するきっかけが得られたので、これまでの成果で得られた解析方法などを応用することで、今まで調べられてこなかった時空で新しいブラックホール解を構成することを考える。それに取り組む動機としては、AdS時空に特有の性質を回避した理論においても超放射不安定性と共鳴ブラックホール解を解析することで、それらのより本質的な理解に迫ることができることが挙げられる。本研究では、回転するブラックホールに注目した超放射不安定性に取り組んでいるが、回転するブラックホールには可能な対称性に関する数理的な定理がいくつか知られている。共鳴ブラックホールは対称性の低い解になっていることが特徴の一つであり、定理で数理的に主張される最低限の対称性を持つ解の具体的な実現などを期待している。 また、AdS時空での共鳴ブラックホールについても、本年度までの研究において課題として残されていた問題に迫ることを考える。その一つとしては、これまでに構成した共鳴ブラックホールやhairy解について、超放射不安定性による動的な成長を数値計算によって調べることを予定している。
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Causes of Carryover |
本年度は、前年度に引き続き、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に影響され、国内外会議への現地出席および共同研究者を訪れての直接議論は不可能であった。今後はようやく状況が改善される兆しがあるので、その分の経費は、翌年度の共同研究のための旅費として使用する。
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Remarks |
セミナー講演(石井貴昭):九州大学, The Dual Mystery Channel of Gauge and Gravity(インド、英語講演), APCTP (韓国、英語講演), 東京工業大学(英語講演), 中央大学
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