2019 Fiscal Year Research-status Report
新蛍光素材を用いた高B/CなK0稀崩壊実験次期計画用VETO検出器の基礎開発
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19K03881
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
吉田 浩司 山形大学, 学士課程基盤教育機構, 教授 (80241727)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 粒子線検出器 / カロリメーター / シンチレーター / 蛍光寿命 / 波長変換ファイバー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はサンドイッチカロリメーターに適した蛍光材料の探索をメインにおこない,吸光発光スペクトル測定や,単一光子計数法による蛍光寿命測定などの光物性実験をおこなった。物質の発光波長域がPMTの受光感度域にあることにこだわらなければ,リサイクル材料として社会に広く浸透しているPET樹脂等,蛍光発光し,経済性,加工性,力学的強度に優れている候補材料は少なくない。その波長域や発光量の不利を新開発のWLS Fiberでカバーできる可能性もある。なので既発売のプラスティックシンチレーターに加えて,PEN樹脂,PET樹脂等の市販リサイクル材料も試料とした。またWLS Fiber等の集光系材料をレーザー,LED, 放射線源を照射して評価するためのテストベンチの整備にも着手した。 自然科学研究機構分子科学研究所極端紫外光研究施設のUVSOR放射光を利用したシンチレーターの性能評価実験は下記の2回に分けて実施した。 (1) BL3Bビームラインにおける近紫外光を利用した実験 (2) BL5Bビームラインにおける真空紫外光を利用した実験 前者は分光蛍光光度計(ランプ光源照射)による吸光・発光スペクトル測定の結果との比較検討が可能であり,既存のシンチレーターについてはメーカーが公表している性能の検証にも用いることが可能である。一方後者は,高エネルギーの粒子線が物質を通過する際に電子に付与する平均エネルギーに近い領域で試料を励起することが可能であり,そこで得られる蛍光寿命データは,素粒子原子核実験の現場において観測されるシンチレーターの時間性能に近いものであろうと推測できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は主に以下について研究の進捗があった。 (1) シンチレーター材料として,既発売品のプラスティックシンチレーターからホームセンターで市販されている樹脂板に至るまで広い範囲で,吸光発光特性や蛍光寿命について測定することができた。蛍光寿命測定は,自然科学研究機構分子科学研究所極端紫外光研究施設のUVSOR放射光(シングルバンチ運転)を試料に照射し,時間相関単一光子計数法を用いることで精度良く(0.1ns以下)おこなわれた。また現在 J-PARC E14 KOTO実験のBarrel veto counter として使用されている独自開発のシンチレーターについてもテストをおこない,性能の検証をおこなうことができた。新素材と喧伝されていたシンチレックスについては,そのベースとなっているPEN樹脂単体の測定もおこない,両者の蛍光寿命データを比較することができた。 (2) 一部の試料の蛍光寿命については,近紫外光励起(300nm-400nm)によるデータと真空紫外光励起(20nm)によるデータを詳細に比較することができた。一般にランプ光源では真空紫外領域で試料を励起することはできないので,シンチレーター製品のカタログデータの多くは近紫外励起のデータに依っている。一方で,高エネルギーの粒子が物質を通過するときは平均して50-100eVのエネルギーを電子に付与することから,真空紫外領域で励起された発光の方がより素粒子原子核実験での検出器の応答特性に近いと考えられる。実際,真空紫外励起によるシンチレックスの蛍光寿命データは,電子ビームテストにおける光電子増倍管の出力波形を裏付けるものとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究ではVETO検出器にも良い位置分解能を持たせることも目標に掲げている。WLS Fiber集光系の光電気信号変換デバイスとしてPMTの代わりにMPPCを用いることにより,検出器にワイヤーチェンバーのような機能を持たせることが可能であろうと考えられる。新世代のMPPCは低ノイズであり,単一光子測定も容易にできるようになってきており,十分に実現可能なアイディアであると考えている。そこで今年度は以下の課題に重点的に取り組んでいく。 (1) VETO検出器用途へのWLSファイバー集光系の性能評価項目の洗い出しと公平な評価方法の確立。(2) PETやPEN樹脂等のリサイクル材料に適したファイバーの選定。(3) 溝加工以外の集光方法の模索。(WLSファイバーやシートを層に挟み込んだり,サンドイッチ内部でシンチレーターをホドスコープ的に配置したりして位置分解能の向上を図る。)(4) PMTからMPPCへの置換と複数MPPCによる位置測定性能向上への探求。 以上の研究を検証するためのテストモジュールを製作する。モジュールを支えるフレームは,汎用性の高い構造を持たせ,金属輻射体,シンチレーター,集光系デバイス,PMTやMPPC等の光電気信号変換デバイス等をテストに応じて入れ替えられる構造にする。組み上げ後はさまざまなベンチテストを開始する。
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Research Products
(1 results)