2020 Fiscal Year Research-status Report
新蛍光素材を用いた高B/CなK0稀崩壊実験次期計画用VETO検出器の基礎開発
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19K03881
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
吉田 浩司 山形大学, 学士課程基盤教育機構, 教授 (80241727)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 粒子線検出器 / シンチレーター / 波長変換ファイバー |
Outline of Annual Research Achievements |
蛍光素材(プラスティックシンチレーターや波長変換光ファイバー(WLSF)等)の性能評価方法として、106Ru線源からのβ線を用いる手法を確立した。もちろん、素粒子原子核実験の実地における性能を検証するには、e、π、μ等の荷電粒子ビームによる最小電離への応答を測定するのが最も確実な方法ではあるが、テスト用の小サンプルを測定するだけのためにしばしば加速器実験を申請するのは実際的ではないし、また、本年度はコロナ禍の下で、大学の一般的な実験室ででも実施可能な実験方法を確立することが強く望まれた。このような場合、しばしば加速器ビームの代替になるのは宇宙線(μ)であるが、テストサンプルの大きさやセットアップの立体角に不足することがそのまま測定結果の統計精度に直結しており極めて実験効率が悪い。また、荷電粒子源としてしばしば利用される90Srは、放出されるβ線のエネルギーが低く、「荷電粒子がシンチレーターを突き抜ける」という実験条件を実現できない。106Ruは半減期が373.6日と短く経済性には劣るものの、β崩壊した子孫核種106Rhが放出するβ線のEmaxは3.55MeVであり、そのような実験条件を実現してベンチテストをおこなうことができる。 本研究では106Ru線源を用いて2種類のWLSF Kuraray Y-11 と B-2 について、その減衰長を精密に測定してみた。溝を掘ったプラスティックシンチレーターにWLSFを埋め込み、それに106Ruからのβ線を透過させることによって実験をおこない、前者については5.95m、後者については5.25mという結果を得た。 また東北大学電子光理学研究センター(ELPH)において「PET樹脂板+Kuraray B2」という組み合わせ等を電子ビームでテストする機会を得た。EJ-200に比べてPET樹脂単体の時間応答が速いという注目すべき知見も得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
進捗したポイント (1) 上述したように蛍光素材の性能評価方法として、106Ru線源からのβ線を用いる手法を確立したこと。多くのサンプルについて研究を進めて行くには、加速器ビームに頼らずとも、大学の一般的な実験室で実施できるベンチテストによる試行錯誤が不可欠であり、一定レベルの測定精度も要求される。LED光、レーザー光、宇宙線による実験に加えて、放射線源を利用した実験についてバリエーションが増えた意義は大きい。実験者の熟練度にもよるが、メーカーのカタログに掲載可能なほど安定した測定が可能になった。 (2) 思いも寄らないPET樹脂の時間応答性能を観測できたこと。これも上述したが、ELPHの電子ビームに対して得られたPET樹脂の時間応答は、ELJEN社製プラスティックシンチレーターEJ-200よりも格段に速く、これはこれまでUVSORの紫外光照射で得られていた両者の蛍光寿命測定の実験結果からは予想できないものであった。発光メカニズムの探求等、今後の課題はさまざま残されてはいるが、高エネルギー物理学に使用される検出器には何よりも高速であることが求められることもあり、発光量がプラスティックシンチレーターの1/5程度であるとはいえ、PET樹脂の可能性を見出せた意義は大きい。 (3) 余録ではあるが、コロナ禍で施設の利用や実地での研究活動が制限される中、オンライン(リモート)による作業分担、データ共有、データ解析をおこなうことができたことにより、次年度以降の研究活動のポテンシャルをコロナ禍においても一定程度確保できた点は挙げておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
WLSファイバー集光系の性能評価項目の洗い出しと公平な評価方法の確立について目処が立ったので、それを元に、VETO検出器にも良い位置分解能を持たせることを目標に研究を進めていく。具体的には、WLS Fiber集光系の光電気信号変換デバイスとしてPMTの代わりにMPPCを用いることにより、検出器にワイヤーチェンバーのような機能を持たせることを試みていく。 また、2021年度は再びUVSORシングルバンチ運転により、精密な蛍光寿命測定をする実験の機会を得たので、有望な候補素材について時間特性の詳細なデータを取得するとともに、γ線ビームラインのテスト運用にも参加し、素粒子原子核実験の実地に近い状況下におけるシンチレーターの時間応答特性についての知見を得たいと考えている。 PET樹脂については、既存のプラスティックシンチレーターを凌駕する時間性能を見出せたので、それをサンドイッチカロリメーターとして組み上げベンチテストをおこなっていきたい。そのためのテストモジュールを製作していくが、モジュールを支えるフレームは、汎用性の高い構造を持たせものが製作済みである。通常のプラスティックシンチレーターによるサンドイッチカロリメーターも比較系として製作し、都合2セットを組み上げて実験をおこなっていく。ベンチテストの結果が有望なものであれば、加速器施設におけるビーム実験も視野に入ってくると思われる。
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Causes of Carryover |
【理由】コロナ禍における移動・出張制限/活動レベル規制/学術会合のキャンセル等により、研究施設での実験旅費および学会・研究会への出張旅費がゼロとなった。 【使用計画】2021年度は岡崎市にある分子科学研究所のUVSORでの実験が予定されており、学部学生および大学院生の出張旅費(山形市―岡崎市)に充当する他、研究成果の発表の機会があれば、それへの旅費にも充てる予定である。
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