2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K03928
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
太田 耕司 京都大学, 理学研究科, 教授 (50221825)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 銀河 / 星形成 / 銀河進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
ALMAによるCO(1-0)の観測データを用いて、星形成の母胎となる巨大分子雲(GMC)を銀河内で同定し、個々のGMCの性質(サイズ、速度幅、分子ガス質量)等を調べた。また、ビリアル比(分子雲が重力的に束縛されているかどうかの指標)も導出した。その結果、これらの諸量の環境(棒部、腕部、棒端部)による有意な違いがないことが分かった。従って、個々の巨大分子雲の性質の違いによって、星形成効率が異なるわけではないことが分かった。 広がった分子ガスがあればそれは星形成に寄与しないと考えられる。そこで分子ガスのうち広がった分子ガスの量とその割合を調べた。ALMAによる干渉計データと野辺山45m電波望遠鏡データを用いて、広がったガスの量・割合を環境毎に調べた。その結果、広がった分子ガスの割合が大きいと、星形成効率が小さくなるという明確な傾向を見出した。そして広がった分子ガスの割合は棒部で最も大きいことも明らかになった。棒部では広がった分子ガスの割合が多く、このため見かけ上星形成効率が小さくなっていると解釈される。CO(2-1)とCO(1-0)の輝線強度比からみても、棒部では分子ガスが低密度で星形成に寄与しない分子ガスの量が多いことをサポートしていると考えられる。 次に、広がった分子ガス成分を除いてGMC成分だけを分子ガスの量であるとした場合の星形成効率を環境毎に調べた。すると、GMCだけを対象としても、棒部では星形成効率は腕部等に比べて有意に小さいことが明らかになった。 強い棒構造をもつ棒渦巻銀河をモデル化して、理論研究者と共同してガスシミュレーションを行なった。シミュレーションで生成される分子雲の諸性質を観測されるそれと比較し、定性的には一致することを確認した。また、シミュレーションでも、棒部で分子雲同士の高速衝突が起こっていることを確かめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
対象銀河を増やすことはできなかったが、主たる対象としている銀河では、研究実績にあるように、当初目標を達成することができ、問題攻略の外堀、内堀を埋めた感じとなり、いよいよ本質に迫るところまで進んでこれたと考えられる。特に、シミュレーションの結果を使うことで、高速衝突の有無をどう調べるかの道筋も見えてきたと考えられる。 一方、赤方偏移1.4付近で見つけた分子ガスでのclumpy銀河との関係を調べる予定であったが、こちらは詳しく観測シミュレーションを行なった結果、また新たに良質の観測データを得た結果、この銀河に見られると考えていた分子ガスclumpは、ノイズによって存在するように見えたものであることがわかり、分子雲衝突との関係は不明となった。 しかし、棒部における星形成の抑制という主たる課題にはかなり迫ったと考えられ、概ね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでの研究で、棒部や腕部における巨大分子雲の性質に有意な差が見られないこと、また、広がった分子ガスの質量割合が大きいと星形成効率がみかけ上低下することが分かってきた。さらに、広がった分子ガス成分を除いて、巨大分子雲に含まれる分子ガスでみても、棒部では有意に星形成効率が低いこともわかった。これらのことから、星形成効率を低下させている真の原因を探る手がかりが得られたと考えられる。 そこで今年度は、星形成効率を低下させている最も本質的な原因は、巨大分子雲の衝突速度であると考えて、巨大分子雲の衝突速度が棒部と腕部等の環境で違いがあるのか?衝突速度の違いで星形成が有無があるのか?といういわば問題の本質的部分であると考えられる点に攻め込む。観測で同定された巨大分子雲の中で視線上で重なっているものの速度差やブリッジ構造の検出をし、また巨大分子雲に速度とその周りの分子雲の平均的な速度からのずれを見ることで、衝突している巨大分子雲の検出を目指す。そしてその速度差の分布を棒部や腕部で明らかにする。また、そのような場所におけるHII領域の有無を調べ、星形成の有無も調べる。星形成が抑制される臨界的な速度差が明らかになれば、衝突速度と星形成の関係がわかって大変面白いと期待される。ただ、臨界衝突速度は巨大分子雲の質量やサイズにも依存するかもしれないので、このあたりにも留意して研究を進める。
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Causes of Carryover |
パソコン価格が意外と安くなったこと、論文出版費が不要な雑誌に投稿したこと、春季学会がコロナウイルスの関連で参加できなくなったこと等が、主な原因と考えられる。次年度も物品費、旅費、出版費等に充てる予定である。
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Research Products
(11 results)