2020 Fiscal Year Research-status Report
油圧半浮上すべり送りねじの分離度を基準とする接触・摩擦状態の能動的制御手法の構築
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19K04148
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
深田 茂生 信州大学, 学術研究院工学系, 教授 (70156743)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | すべり摩擦 / 油圧 / 半浮上 / 分離度 / 送りねじ |
Outline of Annual Research Achievements |
直動ガイドや送りねじでは,摩擦の低減と負荷に対する剛性の向上が同時に要求される.しかし一般に,それらを両立させることは困難である.すべり面方式では,法線荷重に対する剛性は高いが摩擦も大きい.逆に静圧浮上方式の場合は,摩擦は低減できるが剛性も低下してしまう.そこで低摩擦と高剛性を両立させるために,二面が分離しない程度の流体圧を接触面間に供給して見かけの摩擦係数を低減する‘半浮上すべり面’が提案され,直動案内面で実用化されている.本研究では作動流体として鉱油を用いた油圧半浮上すべり面について,摩擦の最小化と高剛性を両立するための接触・摩擦状態の能動的な制御方法を実現し,本方法を半浮上すべり送りねじに応用して,低摩擦で高剛性な位置決め要素を実現することを目的としている.令和2年度にはまず,前年度に構成した実験装置の改良を行い,次に改良後の実験装置を用いて円筒モデルによる実験的検討を行った. 本研究では,実機ねじにおけるねじ面間の接触を円筒端面どうしの接触にモデル化して実験を行うこととし,これまでに実機ねじの円筒モデル化を行い,実験装置と基本的制御系を構成した.実験は円筒摩擦摩耗試験機を改造して行うが,半浮上状態における摩擦トルクを正確に測定するために,トルク軸を案内する転がり軸受を摩擦の無い空気静圧軸受に変更し,より正確なトルク測定が可能な機構とした.さらに改良された実験装置を用いて,圧力目標値を準静的な余弦波状に変化させた場合の浮上変位と分離電圧(分離度)および摩擦トルクを測定し,制御対象となる接触・摩擦面の浮上変位特性と接触電気抵抗特性を把握した.次に分離度τ(0≦τ≦1)を制御量とするフィードバック制御系を構成し,分離度の制御が可能であることを確認した.また回転させない停止状態と回転を伴う場合について,分離度と浮上変位および摩擦トルクの関係について考察した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は,油圧半浮上すべり面の摩擦の最小化と高剛性を両立するための接触・摩擦状態の能動的な制御方法を実現し,低摩擦で高剛性な位置決め要素を実現することを目的としている.半浮上状態の変化を定量的に示す尺度として,二面間の接触電機抵抗と一意的な関係にある分離度に着目し,制御対象となる接触・摩擦面の分離度特性と浮上変位特性および摩擦トルク特性の関係を詳細に把握する必要がある.摩擦トルク特性については,摩擦の大きい完全接触状態から半浮上状態,さらには極微小の摩擦が作用する完全浮上状態までの摩擦変化を正確に測定する必要があり,円筒モデルを支持する軸受を,本実験で利用している摩擦摩耗試験機本来の転がり軸受から空気静圧軸受に変更しなければならなかった.摩擦摩耗試験機本体の構造から軸受設置空間の制約が大きく,設計自由度が限られたために設計に時間を要したこと,さらに空気軸受の納期が延長したことから,改良後の実験装置の組立と実験開始が遅れたことが,当初の計画よりも進捗がやや遅れた原因である. 改良後の装置により油圧を余弦波状に追従させる実験を行い,浮上変位と分離度の関係は油圧に対してヒステリシスが存在することを確認した. 次に分離度τ(0≦τ≦1)を制御量とするフィードバック制御系を構成した.分離度を余弦波状に制御する実験を行い, 荷重と回転数の影響を検討したところ, 荷重の増大と共に分離度のばらつきが少なくなった. 回転速度を変化させると浮上変位の変動が大きくなった. 浮上変位が2μm付近でトルクと分離度が変化し始める傾向が見られ, 分離度の変化に伴う摩擦トルクの変化を確認できた. なお,空気静圧軸受を導入したことにより摩擦測定の誤差要因は除去できたが,一方でトルクセンサの感度不足が顕在化したため,次年度当初にはより高感度のロードセルを設計製作し導入することとした.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにPID動作による圧力制御系および分離度制御系を構成しているが,その詳細なパラメータ調整が完了していない.また,これまでに行った基礎実験により,分離度の計測においては半浮上状態の遷移過程において激しい変動を伴うことが判明しているので,適切なフィルタ処理を検討して適用する必要がある.そこで令和3年度(最終年度)にはまず,分離度変動の時系列信号としての特性を把握し,分離度と浮上変位および摩擦トルクの関係について詳細に考察する.τ=0.5一定の目標値および準静的な余弦波状目標値に対して制御量が安定に整定・追従するように制御パラメータを調整し,応答速度と定常偏差等の制御性能を評価する.また軸荷重変化および回転速度変化に対する分離度制御系の不感性を評価し,荷重や速度の変化に対してよりロバストな制御系を検討して実装する. 以上は,主として実験による試行錯誤的な制御系の調整によっているが,半浮上摩擦面の分離度制御のための一般的な知見へと展開するために,表面粗さを持つ面どうしの接触電気抵抗に関する従来のモデルを参考に,半浮上摩擦面における分離度の定量的モデルについて基礎的検討を行う. さらに,実機半浮上すべり送りねじによる検証と考察を行う.円筒モデルでの実験結果をもとに,実機半浮上すべり送りねじによる実験を行う.ねじ軸およびナットの基本部分は現有しているので,ナット油路における絞りを再設計・製作して取り付ける.現有する送りねじ試験機上で回転速度と荷重を種々に設定して分離度制御実験を行い,最小駆動トルクの保持特性を明らかにする.円筒モデルによる実験結果から,油圧操作による半浮上すべり面の接触・摩擦状態の能動的制御のための一般的な知見を整理し,摩擦を最小とする半浮上状態保持のための必要条件と適用限界を示す.また半浮上送りねじにおける分離度制御の実用化に向けた展望を示す.
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Causes of Carryover |
当初の予定よりもやや遅れたために,令和2年度において行う予定であった実験を十分に実施していない.そのため実験の実施に伴う消耗品費を使用せずに次年度に繰り越すこととした.次年度においてはトルク測定のためのロードセルの製作を行い,円筒モデルおよび実機送りねじの実験を系統的に行う予定であり,そのための材料費などの消耗品費として経費を有効に使用する予定である.
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