2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of a storm-runoff model based on the measurements of saturated-unsaturated flow on a hillslope.
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19K04632
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Research Institution | Lake Biwa Environmental Research Institute |
Principal Investigator |
小島 永裕 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 総合解析部門, 専門員 (00503624)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷 誠 人間環境大学, 人間環境学部, 特任教授 (00314245)
佐山 敬洋 京都大学, 防災研究所, 准教授 (70402930)
正岡 直也 京都大学, 農学研究科, 特定助教 (90786568)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 山地源流域 / 谷壁斜面 / 降雨流出応答 / 流出機構 / 鉛直浸透過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、水害が多発しており、流域総合治水対策、特に山地源流域を対象とした対策が重要であることから、本研究では、流出機構に基づく斜面モデルの開発を目指している。しかし、降雨流出応答の普遍性と流出機構の多様性に不整合性があることから、これまで様々な斜面モデルが提案されたものの、改善が進んでこなかった。この流出機構を吟味するため、本研究において、今年度は山地小流域内の試験斜面で詳細な水流動観測を展開することとした。 これまでの量水観測で基礎的な水文特性が明らかにされている堆積岩山地にある信楽試験地C流域において、平均的な谷壁斜面(勾配約40度、水平長約60m)を選び観測を開始した。まず、斜面の土層厚さの空間分布を貫入試験によって調査した結果、土層厚さは60~180cmと、ばらつきはあるものの比較的薄いことがわかった。これをもとに、斜面の下部、中部、上部にそれぞれ1カ所、10、30、60cm深と土層底面にテンシオメータを設置し、降雨前の土層の乾湿状態を把握するとともに、降雨時の鉛直浸透による圧力水頭の伝達を追跡した。また、これらの10、60cm深にはTDR水分センサーを設置し、体積含水率も計測した。さらに、他にも斜面の5カ所には土層底面にテンシオメータを置き、不飽和鉛直浸透によってsubsurface flowが発生する過程、その後の水面上昇と傾斜方向への地下水流動過程を追跡した。あわせて、斜面下端には量水堰を設置し、斜面からの湧水量を計測した。 観測結果から、斜面下端からの流出特性は流域全体のそれと類似しており、斜面は流域の流出特性を的確に反映していることがわかった。出水時における斜面下部の圧力水頭の鉛直伝播は速やかであり、土壌層内の鉛直浸透過程が洪水流出応答特性に寄与することが推察された。一方、斜面上部では降雨時にも乾燥状態が残っており、洪水流出には寄与しないことが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成31年4月初旬から、研究者間で研究計画の綿密な協議と試験斜面の詳細な踏査を行い、4月下旬には試験斜面の貫入試験を行うことができた。この結果をもとに、6月下旬までにはテンシオメータ、TDR水分センサー、データロガー等必要な観測機器を購入し、直ちに、室内でこれらの調整を行った。7月中旬から観測斜面において、観測機器の組立と調整を行い、同下旬から斜面水分及び斜面下端の湧水の計測を開始するに至った。テンシオメータ内の注入水の凍結を避けるために、現地観測は12月上旬で一旦中断したが、その間、継続してデータを取得することができた。特に、梅雨後の土壌乾燥が進行する期間、その後の秋雨前線や台風に伴う大雨によって土壌が湿潤化する期間の計測をすることができた。計測期間中、台風19号による倒木でテンシオメータの一部が破損したものの直ちに補修を行い、おおむね順調に現地観測を進めることができた。 取得したデータについて、降雨状況と圧力水頭値、土壌水分量、湧水量等との関係を順次解析した。これらの解析結果は、本研究の目的とする流出機構に基づく斜面モデルに反映させることができると期待している。本年度の結果は年度末までにまとめ、その一部は森林学会において発表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
3年間の研究計画に基づき本研究は順調に進んでおり、現段階では試験斜面での観測に重点を置いているが、今後は斜面モデルの開発についても並行して推進する。 観測面では、試験斜面に設置している観測装置による土壌水分観測を継続する。また、斜面モデルの計算では土壌物理性を知る必要があり、土壌サンプルを採取して間隙率と飽和透水係数を測定する。さらに、斜面下端からの湧水量を継続観測するとともに、設置済みの渓流3カ所の量水堰のデータを再解析し、モデルの検証に利用する。 モデル開発面では、水流動追跡に用いる斜面モデルは、飽和不飽和浸透流を表すRichards式をベースに組み立て、汎用ソフトHYDRUSを用いて数値計算を行う。このとき、大間隙の多い森林土壌の土壌物理性をよく表現でき、HYDRUSにも採用されている小杉式を用いるとともに、パイプ状水みちによる効率的な地下水排除の効果に対して、すでに開発された飽和透水係数の値に大きな補正値を掛けて透水能力を表現する手法を採用する。 森林土壌は不均質性が大きく、大きな空間スケールでの物理性が無視できないとの指摘があるため、モデル計算では観測結果から土壌物理性を逆向きに推定する手法を併用する。即ち、同一地点、深さでの圧力水頭と体積含水率の測定結果から土壌物理性を逆推定して計算し、不均質性の影響を考察する。これにより土層内部の流出機構について計算と観測の両結果からの解析が可能になる。 解析結果から得られる流出機構を、河川の洪水流出予測に用いる実用的な流出モデルに活かすパラメータ化を進める。具体的には、貯留関数法において広く用いられてきた貯留型モデルの基礎式のパラメータに、観測から得られた流出機構に基づき、土層厚さ、土壌物理性、水みちの透水能力等の諸条件の反映を検討する。こうして構築される斜面の貯留型モデルを、河川河道を対象とした最新の流出モデルと結合する。
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Causes of Carryover |
本助成金を利用して、観測物品を購入するなどして現地調査は順調に進められたが、年度末の新型コロナウイルス感染症の影響により、参加予定の学会大会が中止され、あわせて、データ整理や解析補助等に従事する協力者の雇用を取りやめたことから次年度使用額が生じた。 次年度は、土壌サンプルを採取するための土壌円筒等の観測物品やモデル解析に用いる汎用ソフトHYDRUSの購入を予定している。また、調査や解析の補助等に関して協力者への謝金や、成果の発表に関して学会出張への旅費の支出を計画している。これらについて、上記の次年度使用額と合わせて利用したい。
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Research Products
(5 results)