2021 Fiscal Year Research-status Report
反応分子動力学法を用いた炭素構造体中の過冷却水のダイナミクス解析
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19K05209
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
水口 朋子 京都工芸繊維大学, 材料化学系, 准教授 (90758963)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | カーボンナノチューブ / 分子動力学シミュレーション / 脂質膜 / OHラジカル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、反応分子動力学法を用いて、炭素構造体中に閉じ込められた水の性質を解明することであった。今年度は、代表的な炭素構造体であるカーボンナノチューブ(CNT)を用いた物質輸送の研究に取り組んだ。具体的には、官能基で修飾したCNTを脂質膜に貫通させ、水中のラジカルやイオンがCNTを通って選択的に輸送される機能の実現を目指している。まずは修飾されていないCNTをジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)二重膜に貫通させ、OHラジカルの透過を解析した。細胞膜内外のラジカル濃度差を表現するために、平面二重膜の上下に異なる個数のラジカルを配置し、拘束をかけて周期境界を跨がないようにした。分子動力学(MD)計算を実行すると、OHラジカルはCNTを介さず、膜を直接透過する様子が見られた。ここでは従来のMD手法を用いているため、OHラジカルは反応しないことに注意が必要である。今後は、CNTの末端を修飾して、膜を直接透過できないイオンなどの透過制御に挑む。また、反応分子動力学法を用いてOHラジカルの反応も考慮に入れた計算を行う。OHラジカルは生体内で発生し、DNAなどを攻撃することが知られており、癌の要因と考えられている。一方で、ラジカルの反応性を利用して癌細胞のみを攻撃することが可能になれば、癌の治療に役立てることができる。CNTを通したラジカルの選択的な透過は、そのような医学的可能性を広げるものである。また、イオンの透過制御は、イオン性薬物の透過などに役立てることができる。どちらの場合も、水が同時に透過するため、CNT内の水の挙動解明は重要になってくる。細孔内の水の構造は、細孔の直径によって変わってくるため、CNTの末端修飾だけでなく、直径の変化も重要な要素として今後の研究で取り入れていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、修飾されていないCNTを脂質(DOPC)二重膜に貫通させ、OHラジカルの透過をMDを用いて解析した。予想外だったのは、OHラジカルが自発的に膜を直接透過したことである。実際にはOHラジカルは反応性が高く、すぐに反応して別の分子になるか、あるいは膜に重大な影響を与えると考えられる。今回のMD計算では反応を取り入れていなかったので、今後の展開としてOHラジカルの反応も考慮に入れた計算を行う必要がある。当初の計画とは少し違う方向に進んでいるが、医学・薬学的な波及効果を考えると、現在実施しているCNTを利用した分子輸送の研究は、進展させるべき重要な内容を含んでいると考える。COVID-19のために学会はほとんどオンライン開催となり、他の研究者と活発に議論する機会が少なくなったのは残念であった。今年度は問題設定や系の作成等に時間を取られたが、来年度は自由エネルギープロファイルの計算を実行し、透過に寄与するパラメータの解明を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
CNTを利用した物質輸送の研究を推進する。ヒドロキシル基やカルボキシ基などでCNT末端を修飾し、イオンやラジカルを透過しやすい条件を明らかにする。具体的には、アンブレラサンプリングを用いて自由エネルギープロファイルを計算する。その際の水の働きにも注目する。水の構造が重要になると考えられるので、これまでの知見を生かして解析を行う。ラジカルにおいては反応性を考慮して、反応分子動力学法を用いた計算も必要になると考えられるが、まずは通常のMDを実行する。来年度の学会はオンライン開催がメインになると予想されるが、そのような状況の中でも積極的に他の研究者と議論する機会を作る。学会発表はもちろん、論文投稿も行って、成果を周知させる。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により、参加予定だった会議がキャンセルあるいはオンラインでの実施に変更されたため、予定していた旅費支出が無くなった。次年度も旅費としての支出は少ないと予想される。計算データが増えてきたため、保存用のサーバーあるいはHDDを購入予定である。
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Research Products
(8 results)
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[Presentation] Tritium-induced damage on polymers and biopolymers: Molecular dynamics simulations and theoretical calculations2021
Author(s)
Susumu Fujiwara, Haolun Li, Ryuta Kawanami, Kazushi Terakawa, Tomoko Mizuguchi, Hiroaki Nakamura, Yoshiteru Yonetani, Kazumi Omata, Seiki Saito, Takuo Yasunaga, Ayako Nakata, Tsuyoshi Miyazaki, Takao Otsuka, Takahiro Kenmotsu, Yuji Hatano and Shinji Saito
Organizer
The 40th JSST Annual International Conference on Simulation Technology
Int'l Joint Research
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