2020 Fiscal Year Research-status Report
植物病原菌の生体制御破壊型非殺菌性農薬の開発に向けた物質の同定及び作用機構解明
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19K05769
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
上野 誠 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (00403460)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 植物病害防除 / 二次代謝産物 / イネ / いもち病 |
Outline of Annual Research Achievements |
沖縄微生物ライブラリーに保存されているStreptomyces erythrochromogenesと高い相同性を示す3-45菌株は、特殊な培養法により、細胞内にイネいもち病菌の付着器の異常な拡大の誘導及び付着器のメラニン化を抑制する物質を生産し、イネ植物体上でもイネいもち病菌の発病を抑制する。今回、同様の活性は、Streptomyces sp.と高い相同性を示す1-86菌株でも確認された。また、1-86菌株は、3-45菌株や4-27菌株と異なり、特殊な培養法ではなく、通常の培養法でも細胞内にイネいもち病菌の付着器の異常な拡大の誘導及び付着器のメラニン化を抑制する物質を生産し、イネ植物体上でもイネいもち病菌の発病を抑制することが明らかになった。本物質は、細胞外には放出されず、細胞内のみに蓄積することが明らかとなり、細胞内からの効率的な抽出法も確率できた。 本研究の目的の1つである作用機構を明らかにするために、付着器形成に関連する遺伝子の網羅的な発現解析を次世代シークエンサーにより行った。その結果、菌体抽出液を処理したイネいもち病では、メラニン合成に関わる遺伝子やキチン合成に関わる遺伝子の発現が抑制されることが確認できた。 また、もう1つの目的である菌体抽出液に含まれる活性物質の構造解析を行うために、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて、活性物質の分画を行った。その結果、活性物質を検出することができた。 さらに、新たに選抜された1-86菌株の菌体抽出液の他の植物病原糸状菌に対する影響を調査した。その結果、キュウリ炭疽病菌の発芽管の先を球状に膨潤させることを明らかにできた。これらの結果により、3-45菌株、4-27菌株及び1-86菌株の菌体抽出液中の物質が、イネいもち病菌だけでなく、複数の植物病原糸状菌の発芽先端部を球状に膨潤させる作用を持つことが明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、イネいもち病菌の付着器の異常な拡大の誘導及び付着器のメラニン化を抑制する物質によるイネいもち病の発病抑制機構を目的としている。上述のとおり、作用機構に関与していると考えられる現象の解析や遺伝子解析及び物質同定に向けた研究が進んでいる。さらに活性物質を生産できる他の菌株の確認やイネいもち病原菌以外の植物病原糸状菌に対する効果を確認できている。ここの遺伝子発現の解析に若干の遅れが生じているが、次年度に解析を実行するための準備が完了している。学会等での発表準備も行っており、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次世代シークエンサーによる網羅的な遺伝子発現は完了しているので、結果を元に個々の遺伝子の発現をリアルタイムPCRにより確認する。また、3-45、4-27、1-86菌株の活性物質の同定に向けた研究については、カラムクロマトグラフィーを用いた単離を行い、構造解析を進める。さらに、本活性物質のイネ及びその他の植物での防除効果の持続性についても調査する予定である。得られた研究成果は、論文として公表する準備を進める。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症対策のために学会等への参加が難しくなり、実際に必要あった旅費が未使用となった。また、次世代シークエンサーにより得られたデータの解析に時間がかかり、リアルタイムPCRによる個々の遺伝子発現解析が実施できていないため、実際に必要となる解析費が未使用となった。次年度に解析費が必要となるため、その経費の利用を計画している。
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