2021 Fiscal Year Research-status Report
チョウ目昆虫が植物の防衛機構を回避するシステムの解明
Project/Area Number |
19K06070
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小澤 理香 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (90597725)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塩尻 かおり 龍谷大学, 農学部, 教授 (10591208)
松井 健二 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (90199729)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | みどりの香り(GLVs) / チョウ目幼虫 / 直接防衛 / 間接防衛 / 防衛回避 / 絹糸腺 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、植食者が植物の防衛機構を回避するシステムについて、カイコで報告されている「みどりの香り」の抑制機構が、他のチョウ目昆虫に広く存在するという仮説を立て、その検証を行っている。 2021年度は、広食性植食者(ゼネラリスト)であるハスモンヨトウについて、シロイヌナズナのみどりの香りの過剰生産株と生産抑制株を用いて、みどりの香りがハスモンヨトウのパフォーマンスに与える影響を調べた。その結果、人工飼料に続き、植物を用いた実験においても、みどりの香りはハスモンヨトウのパフォーマンスに影響を与えないことがわかった。2020年度までの結果も勘案すると、ゼネラリストとスペシャリストではみどりの香りに対する対応が異なる可能性が示唆された。 また、2020年度に明らかにしたアワヨトウのFHD-like遺伝子*のうち、絹糸腺で最も発現量が高い配列について、ゲノム編集技術を用いてノックアウト体を作成した。アワヨトウの食草の1つであるトウモロコシを摂食させたときのパフォーマンスを、このノックアウト体と野生型とで比較した。その結果、みどりの香りを抑制できないノックアウト体の体重は、野生型の体重よりも有意に小さく、アワヨトウにおいても、FHDが植物の防衛機構の回避に関与していることが検証された。今回の結果は、植物の直接防衛の抑制にFHDが関与することを初めて示した重要な知見である。 *FHD-like遺伝子(FHD ; fatty acid hydroperoxide dehydratase, みどりの香りの生合成を特異的に抑制する酵素)
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初研究予定であった植食者5種のうち、これまでに、アワヨトウ、ハスモンヨトウ、コナガについては、直接防衛へのみどりの香りの関与について調べることができ、スペシャリストとゼネラリストでみどりの香りに対する対応が異なる可能性を示すことができた。また、当初の予定にはなかったが、アワヨトウのFHD遺伝子のノックアウト体が作成できたことで、FHDによる植物の防衛機構の抑制について、より確証性の高い成果が期待できる。間接防衛の回避についての解析が遅れているが、このノックアウト体を用いた解析の目途が立ったため、おおむね順調とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
「みどりの香り抑制酵素(FHD)がチョウ目幼虫による食草の防衛回避に寄与している」という仮説の検証が本研究の目的であった。植物のみどりの香りがチョウ目幼虫に対する直接防衛に関与しているかについては、スペシャリストとゼネラリストを使って、検証することができた。また、複数のチョウ目幼虫の絹糸腺にみどりの香り抑制活性が存在することも明らかにした。しかし、FHDの防衛回避への関与については、間接的な証明となることが課題であった。当該年度にアワヨトウのFHDノックアウト体を得ることができたことで、より直接的に、FHDの寄与を検証することが可能となった。今後はこのノックアウト体を用いて、FHDが植物の直接防衛および間接防衛(天敵の誘引)の抑制にかかわるか否かを明らかにしていく。
|
Causes of Carryover |
2020年度に開催予定であった国際昆虫学会における成果発表を計画していたが新型コロナウイルス感染防止対策のため、2022年度(次年度)の開催に延期された。また、同様の理由により、一部の実験の進捗に若干の滞りがあった。これらの理由により次年度使用額が生じた。次年度の助成金に関しては、滞りのあった実験の完了に使用するとともに、学会並びに論文としての成果発表に使用することを計画している。
|