2022 Fiscal Year Research-status Report
チョウ目昆虫が植物の防衛機構を回避するシステムの解明
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19K06070
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小澤 理香 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (90597725)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塩尻 かおり 龍谷大学, 農学部, 教授 (10591208)
松井 健二 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (90199729)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | みどりの香り(GLVs) / チョウ目幼虫 / 直接防衛 / 間接防衛 / 防衛回避 / 絹糸腺 / 寄生蜂 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、植食者が植物の防衛反応を回避するシステムについて、カイコで報告されている「みどりの香り」の抑制機構が、他のチョウ目昆虫に広く存在するという仮説を立て、その検証を行っている。これまでに、みどりの香りが直接防衛として機能するか否かについては、狭食性植食者(スペシャリスト)と広食性植食者(ゼネラリスト)では異なる可能性を示した。また、複数のチョウ目幼虫の絹糸腺にみどりの香り抑制活性が存在すること、ならびに、アワヨトウの絹糸腺に高発現するのFHD-like遺伝子*の配列を明らかにした。 2022年度は、前年度に作成したアワヨトウのFHD遺伝子のノックアウト体を用いて、間接防衛に関して研究を進めた。アワヨトウに食害されたトウモロコシから放出される揮発性物質に、アワヨトウの幼虫に寄生するカリヤサムライコマユバチ(寄生蜂)が誘引される。このため、被食植物の香りは間接防衛として機能していると考えられる。また、この寄生蜂は、アワヨトウの食害痕や糞も寄主探索の手がかりとして利用する。そこで、被食トウモロコシ、食害痕、糞について、ノックアウト体由来のものと野生型由来のものに対する寄生蜂の反応を比較した。その結果、被食植物と食害痕については、FHDのノックアウトにより、むしろ寄生蜂の反応が抑えられる傾向が見られた。一方、糞に対しては、ノックアウト体由来のものに、より高い反応性を示した。このことから、みどりの香りの抑制が寄生蜂の探索行動の回避にかかわる可能性が示された。今後は野生型とノックアウト体の糞の化学分析を進める。 *FHD-like遺伝子(FHD; fatty acid hydroperoxide dehydratase, みどりの香りの生合成を特異的に抑制する酵素)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初研究予定であった直接防衛について、植食者3種について調べることができた。また、間接防衛の調査については、FHDノックアウト体を用いて着手することができ、FHDの防衛回避への関与をより直接的に検証できるようになった。間接防衛については、これまで注目してきた被食植物から放出される匂いだけではなく、糞から放出される匂いに対する天敵寄生蜂の反応に、興味深い知見も得られた。これらのことから、おおむね順調な進展とした。
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Strategy for Future Research Activity |
「みどりの香り抑制酵素(FHD)がチョウ目幼虫による食草の防衛回避に寄与している」という仮説の検証が本研究の目的である。植物のみどりの香りがチョウ目幼虫に対する直接防衛に関与しているという点については、スペシャリストとゼネラリストを用いて、検証することができた。また、複数のチョウ目幼虫の絹糸腺にみどりの香り抑制活性が存在することも明らかにした。さらに、アワヨトウのFHDノックアウト体を用いることで、植物の直接防衛ならびに間接防衛に対する植食者の回避におけるFHDの関与について検証が進んだ。今後は、今回得られた間接防衛に関する知見をもとに、寄生蜂の寄主探索行動の回避にFHDがどのようにかかわるかを明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染防止対策のため、研究連携で若干の滞りがあった。このため、次年度使用額が生じた。次年度の助成金に関しては、FHDによる間接防衛(特に寄生蜂の探索行動)の回避の検証、および、アワヨトウのFHDの作用機構の解析に使用するとともに、学会ならびに論文としての成果発表に使用することを計画している。
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