2019 Fiscal Year Research-status Report
景観スケールにおける亜高山帯針葉樹林の更新に及ぼす風倒撹乱と獣害の相互作用的影響
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19K06141
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
西村 尚之 群馬大学, 社会情報学部, 教授 (10387904)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小山 泰弘 長野県林業総合センター, 指導部, 課長補佐 (00450817)
鈴木 智之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (20633001)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 森林動態 / 伊勢湾台風 / 風倒撹乱 / ニホンジカ / 亜高山帯 / 倒木処理 / 更新 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、亜高山帯針葉樹林における風倒撹乱後の人為干渉の差異と近年の獣害の増加が景観スケールにおける林分更新過程に及ぼす影響を評価するために、亜高山帯針葉樹林の更新過程の基礎的情報である実生・稚樹の動態とニホンジカによる食害の程度を把握するための調査を実施することとしている。当該年度の2019年においては、北八ヶ岳の大規模風倒撹乱後の風倒木搬出林分と風倒木残置林分、撹乱後に皆伐された林分、原生状態の林分を対象に、8台の自動撮影カメラを用いてニホンジカの分布動向や行動習性を6月下旬から10月下旬まで記録・調査した。同時にそれらの場所に設定した20m×20m区において、各4個の1㎡方形区の実生調査区を設定して、6月下旬から10月下旬まで当年生実生の消長を追跡調査した。自動撮影カメラの解析の結果、調査地によってニホンジカの出現頻度と滞在時間が大きく異なっていたが、ニホンジカの歩きやすさを左右すると考えられる風倒木処理の有無は出現頻度に影響せず、林床の植生型が出現頻度に関連しており、コケが優占する植生型の林分で出現頻度が少なく、ササ地やイネ科草本型の林分で出現頻度が高いということが明らかとなった。一方、8カ所の林分における針葉樹当年生実生の消長については、前年(2018年)がシラビソ・オオシラビソの結実の豊作年であったこともあり、最大80個体/㎡、平均20個体/㎡の高密度で実生が出現した。出現個体数は8月上旬に最大となり、10月末までに約30%が死亡・消失した。また、2019年の当年生実生の生残率は原生状態の林分で低い傾向があり、特にササの多い林分の生残率が最も低かった。樹種別ではシラビソの出現個体数が最も多く、生残率ではオオシラビソが最も高かった。さらに、当該年度の研究から2019-2020年の冬期中のニホンジカの撮影データの解析、当年生実生の冬期中の生残の解析が可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は、亜高山帯針葉樹林における風倒撹乱後の人為干渉の差異(倒木搬出または残置、皆伐、無施業)とニホンジカが景観スケールにおける林分更新過程に及ぼす影響を評価することである。そのため、調査対象林分が広範囲にわたり、単年度だけでは多くの調査ができないが、当該年度においては確実に一地域の調査データを収集できた。また、分担者の1名が12月に研究代表者所属機関の近隣県から遠方県の所属部署に配置異動となり、この分担者においては採択された時に比べて10倍以上の旅費や時間が必要となったことにより、当該年度の研究課題の進捗、特に、データ解析などに関わる打ち合わせ会議等の開催などに少なからず影響があったことは否定できない。当然、年度末の新型コロナウイルスの影響は分担者の出張に関して大きかったと言わざるを得ない。一方で、当該年度は研究計画の初年度であり、次年度以降、広範囲にまたがる調査の実施や分担者の旅費不足などを検討しながら、早期の段階で年次進行計画を見直すことにより、目的を達成するためのデータを収集することができると考えられることから、総合的にみると今年度の進捗状況には大きな問題はない。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年における研究の進捗についてはおおむね順調であったが、令和2年度においては新型コロナウイルスの影響が大きく、予定している調査の実施が難しい可能性がある。また、分担者の1名が研究代表者所属機関の近隣県から遠方県の所属部署に配置異動となり、これにより分担者の旅費不足が確実に発生するが、まずは令和2年度の調査内容を見直し、研究代表者と分担者の役割分担などを変更して、それに基づいた調査スケジュールを策定する。また、本研究課題は、5年間にわたり実施されるものであり、研究計画や内容を早期に見直すことにより,目的となる最終的な成果を達成できると考えられる。さらに、令和2年において実行可能な調査内容を優先して実施することとして、実生調査の継続とシードトラップの設置による種子落下数の把握による更新初期過程の確実な証拠となるデータ収集と、その後の更新過程へのニホンジカの影響を明らかにするための的確な稚樹調査とニホンジカの嗜好性調査について可能な範囲で実施することにより、今後の研究の進捗を円滑に進めることができると考えられる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により3月中に開催予定の関連所属学会がすべて中止となり、情報収集のために学会に参加予定であった代表者・分担者2名の研究組織構成員3名全員の旅費が不要になったこと、同じく年度末に予定していた解析に関する打ち合わせ会議の中止により旅費が使用できなかったこと、および、それに関連してデータ解析を各分担者において実施していただいたことから研究代表者で予定していたデータまとめを補助する者への謝金が不要となり、このような使用用途が無くなったために次年度に繰り越し金が発生した。なお、この繰り越し金は次年度における研究代表者の研究を補助する者に支払う謝金、および、遠方地に異動した分担者の調査の旅費として使用する予定である。
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