2021 Fiscal Year Research-status Report
景観スケールにおける亜高山帯針葉樹林の更新に及ぼす風倒撹乱と獣害の相互作用的影響
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19K06141
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
西村 尚之 群馬大学, 情報学部, 教授 (10387904)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小山 泰弘 長野県林業総合センター, 指導部, 課長補佐 (00450817)
鈴木 智之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (20633001)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 森林動態 / 伊勢湾台風 / 風倒撹乱 / ニホンジカ / 亜高山帯 / 倒木処理 / 更新 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、亜高山帯針葉樹林における風倒撹乱後の人為干渉の差異とそれに関連したニホンジカの出現動向が景観スケールでの林分更新動態に及ぼす影響を評価するために、亜高山帯針葉樹林の更新過程の基礎的情報である実生・稚樹の動態とニホンジカによる樹木被害の程度を把握するための調査を実施することとして、当該年度の2021年は過去2年間に引き続き、北八ヶ岳の大規模風倒撹乱後の風倒木搬出林分と風倒木残置林分、台風後に皆伐された林分、大規模風倒撹乱のない原生状態林分の8カ所においてニホンジカの分布動向や行動習性を把握するために自動撮影カメラによる調査・解析を実施した。同様に2019年当年生実生の消長について2021年7月まで追跡調査を実施した。その結果、ニホンジカの出現は林床環境に強く関連しており、ササ類型林床では厳冬期を除いたどの時期でもニホンジカが高い頻度で出現し,短茎イネ科草本型林床及びコケ型林床では厳冬期と残雪がある早春期を除いてニホンジカの出現頻度が高かった。一方で、コケ型林床や倒木の多い林分ではニホンジカの出現が少なく,さらに樹高がより低い樹木への被害が多い傾向があった.次に2021年の針葉樹の更新初期段階に関する調査結果として,針葉樹当年性実生の発生はどの林分においてもまったく確認されず,これは2020年が種子落下調査から凶作年であったことと一致した.さらに平均29個体/㎡の発生があった2019年実生の追跡調査の結果,2021年7月の生残率は樹種,倒木処理,発生基質に関係していることが明らかとなった.特に,オオシラビソが他樹種に比べて生残に有利で,倒木残置林分やコケのある倒木上基質で発生した実生の生残が有利であった.なお,林床光環境はほとんど生残に関係しておらず,亜高山帯針葉樹林の更新初期における動態は林床の倒木状態に関連する地床環境が影響を及ぼしていることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題における最終成果目標の達成程度を考えると、調査対象林分は広範囲にわたることが望ましく、さらに、森林の更新に対する撹乱の影響がどの樹木更新ステージと関連性が大きいか、また、それが獣害によりどのような影響を受けるのか、ということを説明するためには、人為干渉の差異とニホンジカの動向の差異が組み合わされた複雑な環境条件での樹木更新の各ステージの現状を把握する必要がある。現在まで、これらが把握できた調査内容としては、初期更新過程における実生の動態、林分維持の役割を成す成木段階の樹木群集動態である。なお、新型コロナウイルスの影響や分担者の異動の影響はかなりあったが、現在までの研究課題の進捗、特に、解析方法と解析結果の解釈,さらに,それを踏まえての今後の調査方針に関わる打ち合わせ会議等の開催を含めて早期の段階で年次進行計画を見直したため、目的を達成するための研究内容としては総合的にみると現在までの進捗状況には大きな問題はない。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度においては新型コロナウイルスと令和2年度に分担者1名の所属部署に配置異動の影響があり,研究代表者と分担者の役割分担などを調整して、それに基づいた調査スケジュールを策定して実施した。本研究課題は5年間にわたり実施されるものであり、研究計画や内容を毎年見直すことにより、目的となる最終的な成果を達成できるので、今後の研究の推進方策においては大きな問題は見られない。特に,令和4年度は最終年度前年にあたり,論文作成を進めることを中心に検討しており,最終年度中に着実に研究成果が公表できる準備を進める予定である.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により年次計画を見直し野外調査の回数および場所を最小限度にしたために、代表者・分担者ともに旅費と調査協力者への謝金が一部不要となった。そのため,各研究機関においてそれぞれわずかな金額の繰り越し金が発生した。なお、この繰り越し金は次年度以降における各研究機関への配分経費に基づいて,研究代表者および研究分担者の旅費と消耗品の購入に使用する予定であり,研究代表者においては研究を補助する者に支払う謝金にも使用する予定である。
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