2021 Fiscal Year Research-status Report
有機態リン再生過程とリン酸-酸素安定同位体解析に基づくリン循環の解明
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19K06196
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Research Institution | Research Institute for Humanity and Nature |
Principal Investigator |
池谷 透 総合地球環境学研究所, 研究部, 外来研究員 (70361590)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥田 昇 神戸大学, 内海域環境教育研究センター, 教授 (30380281)
伴 修平 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (50238234)
石田 卓也 広島大学, 先進理工系科学研究科(総), 助教 (70759571)
丸尾 雅啓 滋賀県立大学, 環境科学部, 教授 (80275156)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 有機態リン / オルトリン酸 / イオンクロマトグラフィー / リン酸酸素安定同位体 / リン酸エステラーゼ / エクトエンザイム / 微生物メタゲノム / 次世代シーケンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
野外の有機態リン分解過程は部分的解明に留まり、リン循環の全体像と素過程の関係は理解が進んでいない。本研究では、細胞外酵素であるリン酸エステル分解酵素による有機態リンの加水分解反応の結果生成するオルトリン酸をイオンクロマトグラフィーで測定することにより、リン酸エステラーゼごとに分解量を見積る分析法を確立し、リン酸酸素同位体比を用いたアプローチと併せ、湖沼微生物群動態とリン循環の関係について解明を進めている。 リン循環の再生過程に寄与する有機態リン成分を明らかにするため、複数種のリン酸エステラーゼ(アルカリホスファターゼ・ホスホジエステラーゼI・無機ピロホスファターゼ)を用いて野外試験水の有機態リン濃度を成分ごとに調べた。一定の反応時間を経過後に、リン酸エステラーゼによって生成したオルトリン酸をイオンクロマトグラフィーで定量することによって、モリブデン青法(SRP)測定のように酸添加による有機態リンの非特異的分解を抑えた。内湖への流入成分が、2つの内湖に流入後にどう変動を示すのかを調べるための予備的測定を行い、日本陸水学会で研究発表を行った。内湖の滞留時間が短くなる灌漑期の7月の流入水の有機態リン濃度は非灌漑期の11月に比べると高く、リン酸モノエステル結合が多かった。反対に、流入水の([リン酸ジエステル結合+ピロリン酸ジエステル結合)] / [リン酸モノエステル結合]比は11月に高く、7月に低かった。 内湖の湖水が示すエステラーゼ活性を考慮すると、平湖・柳平湖に流入後は、いずれの有機態リンもリン再生に寄与すると考えられた。孔径の異なるフィルターの濾別によってサイズ画分ごとに有機態リンの分解量を調べた結果、11月試料は0.2μmろ水画分にリン酸モノエステル結合が占める割合がGF/Fろ水画分に比べて少なく、湖水中で小さな画分の有機態リンまで利用されている可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1)リン酸エステラーゼによる分解反応のモデル基質として、ウンベリフェロン蛍光を生成する基質(4-Methylumbelliferyl Phosphate・4-Methylumbelliferyl pyrophosphate diester)を用いることにより、酵素反応速度の測定を簡便に行うことが出来るようになった。また、加水分解反応による蛍光とリンの生成の同時測定をすることにより、アルカリホスファターゼや無機ピロホスファターゼによるオルトリンの生成収率がCCCPやCAP共存下でウンベリフェロン分子生成に対して1前後となり、生成したオルトリンが的確に測定できていることを確かめた。一方、ジエステラーゼの反応速度は二価陽イオンの影響を強く受けることを確認し、塩化マグネシウムを用いてイオンクロマトグラフィー測定条件と共に分解反応条件の最適化を図った。野外試験水の場合は、最適な反応条件でもウンベリフェロン蛍光の蛍光収率が変化することが分かり、測定結果を評価するまでに時間を要した。 2)脂溶性弱酸型脱共役やリン酸化阻害効果が知られているCCCP(carbonyl cyanide m-chlorophenylhydrazone)とたんぱく質合成阻害剤であるCAP(Chroramphenicol)を、予め、ろ過によって微生物・懸濁物を除去した冷凍保存試料に添加することにより、保存中の酵素による分解や微生物の取り込み、さらに、分解反応中のオルトリンの微生物による再吸収を抑えるのに有効なことを確かめたが、リン酸エステラーゼの酵素活性を阻害することにもなる。このため、一定の反応速度を得るための条件検討の作業が想定以上に必要になった。微生物によるオルトリンの再吸収を抑える阻害剤を保存試料や反応液に予め添加して分解反応を最適化する条件検討を経て、本試料分析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
阻害剤添加によって、有機態リンの分解量をオルトリン酸として効率良く定量するイオンクロマトグラフィー分析系を確立できた。モデル基質と既知のリン酸エステラーゼを用いて、生成したオルトリン酸の検出と定量をするケーススタディについて論文公表を行う。また、2つの連結内湖の湖水と水田からの流入水についてエステル酵素種ごとにリン酸エステル濃度を求め、リン酸エルテル結合形態の異なる有機態リンとリン酸-酸素安定同位体比の変動がどのような関係にあるのか検討を進め、微生物群動態とリンの生物学的循環に対する有機態リンの関係を明らかにする。同試料についてRNA-seq解析を行うための配列データを取得できたので、今後、メタ16解析解析データと共にバクテリアの遺伝子発現との関係から解析を進める。内湖集水域の灌漑状況や滞留時間に応じて、内湖への流入水中の有機態リン濃度や内湖のプランクトン微生物群のリン制限強度が変わると考えられることから、流入量やリン制限の変化がバクテリア組成や遺伝子発現が湖水中の有機態リンの変化とどう対応するかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
本研究計画の主要課題の一つである有機態リンの定量分析を行うためのイオンクロマトグラフィーの測定の進ちょくが当初より遅れ、論文作成に関わる費用などが未使用として残ったため。現在、イオンクロマトグラフィー測定の最終段階に入っており、他の取得済み分析データと併せて成果公表を年度内に進めて行く予定である。
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Research Products
(1 results)