2020 Fiscal Year Research-status Report
「過剰対応型農政」から「ポスト過剰時代の農政」へ: 米国農政の動向と日本への適用
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19K06252
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Research Institution | North Asia University |
Principal Investigator |
荒幡 克己 ノースアジア大学, 経済学部, 教授(移行) (90293547)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | nutrition economics / gastro-nationalism / food convergence / nutritional transition / Preston Curve |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画において設定されている複数の課題のうち、令和2年度は、新型コロナ流行の影響で、研究の行動制限を受けて、課題によってはその実行に関してかなり制約を受けたものがあった。特に、アメリカへの渡航ができなかったため、アメリカ農政情報に関する調査は先送りとした。このため、それ以外のデータ収集による計量経済分析に力点をおいて研究を進めた。 第三の課題である栄養政策に関しては、その歴史的な変遷と、更にその国際比較が重要である。このため、Angus DeatonやRobert Fogelらの一般経済史の研究者の論文をまずは渉猟、読破し、近世以降の経済成長と栄養摂取の歴史と、その理論的体系を学説的、理論的に整理することを進めた。これを基に、栄養摂取に関する有効な分析となるPreston Curveについて、研究を進めた。 更に、第一、第二の課題である、農業生産、農政、その政治過程にもつながる領域として、OECDの貿易データを分析、先進各国の食生活におけるgastro-nationalismとfood convergenceの相克について、基礎的知見を得た。例えは、フランスでは、伝統的なパン主体の食事からパスタ類の増加傾向など、food convergenceの動きを確認した。その一方で、フランスは、デュラム小麦の振興によりパスタ原料小麦の国産化に力を入れ、補助金として「カップリング支払い」を意識して行っていることが明らかとなった。ドイツでも、伝統的なジャガイモの摂取量の減少傾向が続いていることが明らかとなった。無論ドイツでも、パスタ類の消費増加の傾向はあるが、これは、気候的に生産が困難であるため、それはただ輸入を受け入れるのみであり、フランスとは対応を異にしていることが明らかとなった。 また、現代農政研究の一環として、米の消費関数の推定とその政策評価についても、研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナの流行により、アメリカ農業経済学会年次大会が中止となり、渡米延期を余儀なくされた。また、この学会参加を機に、ワシントン郊外の国立公文書館を訪れて、政府文書の渉猟を行う予定であったが、これも延期した。このため、現在栄養政策に関する分析で第一人者である、アメリカタフツ大学のW. Mastersとの直接の交流ができず、また戦後占領下でのアメリカの対日食料・栄養政策に関する調査ができなかった。 とはいえ、その他の分野、栄養政策の食品貿易政策に関しては、所要の成果が得られ、特に明治期の日本農政の進捗等に関しては、大きな研究の進展があった。秋田県における斎藤宇一郎が主導した「乾田馬耕」の普及に関して、資料を収集できた。 日本の現代農政については、特にコロナ流行に影響を受けることなく、順調に研究を進め、その機軸となる米消費関数の推定とその政策的評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまで二か年の研究で明らかになったこととしては、この栄養政策に関する日本での研究が、当初推定していた以上に、著しく立ち遅れていることである。よって、本研究は、この領域で、新たに学術研究の未着手分野の地平を切り開くものとして意義が大きいことがわかった。 次年度以降は、当初の予定である三つのテーマ(1.農業補助金のデカップリング度の分析、2.農政の政治的選好度の分析、3.栄養政策)に関して、1/3ずつのウエイトを置く、というよりも、やや栄養政策の分析に力点を置いて、研究を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナ流行により、アメリカの学会が中止になるとともに、国内現地調査も自粛を余儀なくされた。このため、外国旅費、国内旅費で令和2年度予算が未使用となり、繰越したため、次年度使用額が発生した。 次年度は、外国及び国内旅費を繰り越し分も合わせて積極的に活用して、研究を遅延を取り戻すべく、積極的に調査を進めて行きたい。
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